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居候日記  作者: narrow
79/95

続き

    ◆

 森の奥深くには悪魔が住み着いていて、生贄をささげれば願いをかなえてくれる。

 村の近くの森にはそんなうわさがあった。

 黒々と茂る大きな森は、どこまで続くのかわからないくらいに広く、大人でもあまり深くまで足をふみいれることはなかった。

 薄暗い森のところどころ、光でできた柱のように木漏れ日が、太く、細く差している。

 しずかなその風景に、子供たちの声が響く。

 少女は、友達と甘い木の実をつみにきていた。

 そこへ足を踏み入れるのは禁じられていたものの、そういう場所ほど魅力的なものが隠されている。

 森でとれる木の実は、どこのものよりも甘く、大きかった。

 子供たちだけが知っている秘密のその場所へゆくと、思った以上にたくさんの実がなっており、彼女たちはきゃあきゃあと歓声をあげながらそれを夢中でつんだ。

 そうするうち、だんだんと森の奥まできてしまっていた彼女は、いつのまにかそばにいた友達が、一人も見当たらなくなっているのに気づいた。

 呼べばすぐ返事してくれるよね、と彼女はそれを気にしなかった。

 かなりの時間がたち、かごいっぱいに木の実がとれて、満足した彼女は、大きな声でみんなを呼んでみる。

 「リジィー、ノエルー、みんなーどこー?」

 耳をすましても、しぃんと静まり返った森からは、返事はおろか物音すら聞こえてこない。

 「みんなー?どこおーーー?」

 自分がきたであろう方角へ、数歩踏み出す。

 なんの気配も、人影もない。

 時折、どこかから鳥の鳴く声と、高いところで木の葉同士がこすれあう音だけが聞こえた。

 木漏れ日が、その角度と色をゆっくりと変えてゆく。

 みんなを、知っている風景を探して、闇雲に歩き回ってみるが、いっこうに状況はよくならなかった。

 いつのまにか、日は沈みかけている。

 どうしよう、もうかえれない。

 こわいあくまがでてきたら、どうしようどうしようどうしよう。

 「うぅ、ぐすっ・・・ふぅっ・・・ぇ」

 泣きながら、それでもとぼとぼと彼女は歩く。

 けれど、もうどこに向かって歩いているのか見当もつかない。

 「・・・かえ、りたい、ようっ・・・ぐすっ。」

 涙でぐしゃぐしゃの顔を、手でこする。

 視界がふさがり、

 「ぅわあっ!」

 それでも歩き続けていた彼女は、木の根に足をとられて転んだ。

 寂しくて、不安で、もう立ち上がる元気もなく、少女はそのまま本格的に泣き出す。

 「うるさい。」

 すぐそばで、低く恐ろしい声が聞こえた。

 彼女の体の下にあった、木の根と思えたものが動く。

 薄暗い森で、木によりかかりながら地面に座っているその人の顔は、あまりに白く、ほんのりと発光しているように見えた。

 「・・・あ、・・・あくま!」

 黒い衣服に身を包み、青白い顔のその男は、長い黒髪を振り乱し、人間の姿をしてはいたがひどく不気味だった。

 「だったら、なんだ?食ってやろうか。」

 彼が伸ばしていた脚を折り曲げると、彼の足の上に倒れこんでいた彼女は引き寄せられる形になった。

 「ぃっ・・・ひぃ、やだよぉ・・・」

 驚いて涙も引っ込んでいた彼女だが、また泣き出しそうになる。

 おおきな手が彼女の頭部をつかむと、上を向かせる。

 男の目がぼんやりと光っているのが見えた。

 食べられる、食べられるのはやだっ!

 そう思った彼女は、身代わりを思いついた。

 「これっこれあげるっ!食べるならこっち!」

 さっきたくさんつんだ甘い木の実だ。

 赤くつやつやした、かごいっぱいのそれを、悪魔に見せる。

 だめかもしれないけど、神様お願い!

 彼女は目をぎゅっと閉じて、悪魔が何か言うのを待った。

 ・・・ぷちゅっ。

 水気を含んだ音がして、おそるおそる目を開けると、悪魔が木の実をぱくついているところだった。

 長い髪の間からのぞく顔に、表情はない。

 うっすらと発光する目が、彼女にその視線をよこす。

 「お前・・・」

 悪魔が恐ろしい声で話しかけてくる。

 「いつまで俺の脚の上で寝てるんだ。」

 「あっ!」

 彼女はあわてて立ち上がった。

 ぷちゅ、ぷちゅ・・・。

 悪魔は次々とかごの中の実を食べてしまう。

 全部食べ終わったらあたしの番かもしれない、そう思い、彼女は音を立てないようにして、そっと悪魔から離れようとした。

(続)

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