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居候日記  作者: narrow
78/95

15 めざめるゆめ

 「何百年たっても、俺は俺か。くり返すのは…もうゴメンだ。いいかげん思い出せよ、“俺”…」

 そう言って諦め顔で笑い、俺の中の俺は消えた。

 “夢”を見た。

    ◆


 前は、夢なんて時々しか見なかった。


 どこか、明るい場所に俺はいた。


 このところ、数日に一度のペースで夢を見る。


 キラキラと陽に光る緑が、俺の視界の中で楽しそうに、踊るようにゆれている。


 思い出せそうで思い出せない何かがひっかかっているような、もどかしい目覚め。


 光、緑、空の青、・・・明るくあたたかい光景の中、けれどなぜか青とも緑ともつかない色が悲しみを運んできて、夢は終わる。


 美しい色彩と断片的なイメージを残すその夢の、肝心な内容は、あまりよく覚えていない。


 けれど、思い出さなければいけない気がする。

 もどかしさが不快で、それでいてなんだか懐かしいあの夢。


 やがてその夢を見る頻度はだんだんと高くなってゆき、起きた後に残る夢の印象や、映像の切れ端も多くなっていった。


 そしてそれは毎晩のように訪れるようになり、夢の内容も少しはわかるようになった。

 楽しそうに語りかけてくる、少女の夢。

 あの緑色は、深い森。

 黒々と茂り、そびえる木々の間を見上げると、その隙間に、高く青い空。

 紅茶色の髪をした少女が、すぐそばで俺に笑いかけてくる。

 まるで、レイの笑う顔みたいに、不快感もなく自然にそれは俺の心に入り込んで・・・。

 

 見続けるうちに、俺は気づいた。

 これは、記憶だ。

 忘れ去った遠い記憶、封じ込められていた、俺にとって不利益な記憶が目覚めようとしている。

 思い出すのは危険だと、本能が告げる、けれど平和な、タイクツそのものの風景。

 木漏れ日の差す美しい、深い森。

 笑う少女。

 レイに似た、その笑いかた。

 なぜ、忘れていたのだろう。

 俺は、その笑顔がもたらすもの、”それ”を知っている。


 それ?

 って、何だ?


 その男の声は、いつもやわらかに響く。

 「ねえ、聞かせて」


 今はわからなくなってしまっている何か。

 思い出してはいけない何か。


 「君は」

 優しげな男の、その瞳は、さわやかでいて、けれど忘れていた悲しみを呼び起こすような色。


 腕の中に彼女がいる。

 閉じたまぶたは、もう二度と開くことはない。

 「おまえは、・・・を!」

 涙をためた瞳で、けれど怒りの形相で俺を責めているのはスズキ・・・いや、こいつはスズキなんて名じゃない。

 このときまだコイツは人間で、俺たちのような“名を持たないもの”ですらなく、本当の名前があったはずだ。

 その記憶も、また夢の中。

 お前は、本当は誰だ?

 いつから俺を知ってるんだ?

 お前と俺は、偶然出会ったのではなかったのか?

 なぜかお前と戦う気にならないのは、お前が悪魔の俺に何もしないのは、この記憶に関係があるのか?


 夢としてよみがえる記憶の断片は、だんだんと増えながらも全てはそろわず、全体像までは把握できない。

 

 「僕は、ずっとそれを待ってた。自分で思い出してごらん、もう少しだ。すべて思い出したら、君にききたいことがある。答えは、・・・もうわかってるけど、どうしても君自身から聞きたい。」

 この記憶は何なんだ?

 そう訊いた俺に、複雑な表情でスズキは笑いかけた。

 痛みを抱えているような、懐かしむような、愛しいものを見るような、それは分類しがたい、どんな表現もあてはまらないような顔だった。

 もう少し、そういわれても俺には夢しかない。

 夢が与えてくる情報以外、自分では何も思い出せそうになかった。


 「君は、・・・・・てた?」

 ああ、そうだ、その通り。


 それは、遠い遠い記憶。(続)

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