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居候日記  作者: narrow
77/95

続き 4

 しかしそれは、いつまでも続かなかった。

 「・・・きゅぅ・・・」

 押さえきれない声が、細く漏れた。

 子犬の鳴き声そっくりな、か細いそれは零の中でぼろぼろになっていたモノを、完全に壊した。

 「泣くならフツーに泣け。“そういうの”がイヤなんだ、俺は。」

 レイがわずかに顔を上げた。

 かろうじて、零を見ているのがわかる。

 彼女が何を言うのか、が怖くて、零は言葉を重ねる。

 「隠し事だとかガマンだとか。見えみえなんだ、俺からすりゃ。だから」

 文句をいいながら、零は唐突に気付いた。

 この後自分がどうするか、どうしたいのか。

 らしくない表情をうかべそうな顔を、呆れを装って片手でおさえ、隠した。

 かすかな熱を感じた。

 それでも、そうまでしても止められない自分。

 「だから、この件はナシだ。無かった、ってことに…してくれ。」

 レイは鼻をすんすん言わせるだけで、中々答えない。

 大泣きしていたので、それがカンタンにはおさまらないのだ。

 その沈黙が、零を焦らせる。

 「・・・ぁ、泣かせたのは、悪かった。確かに、そこまですることは、なかった、な。」

 レイの反応が気になって、顔をおおっていた手を放す。

 目が合った。

 彼女は、信じられないことに出会った顔をしていた。

 「謝って、くれんの?」

 零は声を出すことがなぜかためらわれ、黙ってうなずいた。

 その瞬間、空気が軽くなった気がした。

 ゆっくりと、レイの表情から悲しみが消えて行く。

 「じゃあ、じゃあね、あのねっ…ホントは、ね?」

 いいにくそうにするレイに、零はいつも通りのフリで言う。

 「何だ。」

 安心したせいか、うまくダルい声が出た。

 レイの上目遣いがこちらをうかがっている。

 「やっぱもっかい、さっきの。イイコ、して?」

 許された安堵、与えられた資格。

 微笑んでしまいそうな表情を、嘘だと思われたくなくて固める。

 手を伸ばす。

 濡れてしまった頬を、ぬぐう。

 指が髪に触れる。

 逃げないことに安心して、そっと撫でる。

 レイが嬉しそうに微笑み、零は目の前が真っ白になった。

 こうなるハズだった。

 自分はこれを望んでいたのだ。

 やっとそれに気付く。

 レイの戸惑った声で、我に帰る。

 「あ、あれ?零さん、だっこじゃないよ?イイコだよ?」

 声は、腕の中から聞こえていた。

 「これも、謝罪のうちだ。」

 勘違いさせれば、また泣かせる。

 そう思うと、まだ胸のうちは明かせない。

 自分でもわかっていないのだから。

 「…うん。」

 背中にレイの手が回る。

 彼女を撫でてやりながら、零は自分を苦しめ、時に喜びを与え、つかまえているものが何なのかを考えた。

 

 一番思い当たる、“ありえない それ”以外の可能性を。

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