続き 4
しかしそれは、いつまでも続かなかった。
「・・・きゅぅ・・・」
押さえきれない声が、細く漏れた。
子犬の鳴き声そっくりな、か細いそれは零の中でぼろぼろになっていたモノを、完全に壊した。
「泣くならフツーに泣け。“そういうの”がイヤなんだ、俺は。」
レイがわずかに顔を上げた。
かろうじて、零を見ているのがわかる。
彼女が何を言うのか、が怖くて、零は言葉を重ねる。
「隠し事だとかガマンだとか。見えみえなんだ、俺からすりゃ。だから」
文句をいいながら、零は唐突に気付いた。
この後自分がどうするか、どうしたいのか。
らしくない表情をうかべそうな顔を、呆れを装って片手でおさえ、隠した。
かすかな熱を感じた。
それでも、そうまでしても止められない自分。
「だから、この件はナシだ。無かった、ってことに…してくれ。」
レイは鼻をすんすん言わせるだけで、中々答えない。
大泣きしていたので、それがカンタンにはおさまらないのだ。
その沈黙が、零を焦らせる。
「・・・ぁ、泣かせたのは、悪かった。確かに、そこまですることは、なかった、な。」
レイの反応が気になって、顔をおおっていた手を放す。
目が合った。
彼女は、信じられないことに出会った顔をしていた。
「謝って、くれんの?」
零は声を出すことがなぜかためらわれ、黙ってうなずいた。
その瞬間、空気が軽くなった気がした。
ゆっくりと、レイの表情から悲しみが消えて行く。
「じゃあ、じゃあね、あのねっ…ホントは、ね?」
いいにくそうにするレイに、零はいつも通りのフリで言う。
「何だ。」
安心したせいか、うまくダルい声が出た。
レイの上目遣いがこちらをうかがっている。
「やっぱもっかい、さっきの。イイコ、して?」
許された安堵、与えられた資格。
微笑んでしまいそうな表情を、嘘だと思われたくなくて固める。
手を伸ばす。
濡れてしまった頬を、ぬぐう。
指が髪に触れる。
逃げないことに安心して、そっと撫でる。
レイが嬉しそうに微笑み、零は目の前が真っ白になった。
こうなるハズだった。
自分はこれを望んでいたのだ。
やっとそれに気付く。
レイの戸惑った声で、我に帰る。
「あ、あれ?零さん、だっこじゃないよ?イイコだよ?」
声は、腕の中から聞こえていた。
「これも、謝罪のうちだ。」
勘違いさせれば、また泣かせる。
そう思うと、まだ胸のうちは明かせない。
自分でもわかっていないのだから。
「…うん。」
背中にレイの手が回る。
彼女を撫でてやりながら、零は自分を苦しめ、時に喜びを与え、つかまえているものが何なのかを考えた。
一番思い当たる、“ありえない それ”以外の可能性を。