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居候日記  作者: narrow
74/95

続き

    ◆

 軽快なメロディーが部屋に鳴り響く。

 レイのケイタイからだ。

 充電中だったそれを手に取り、レイは話し始める。

 「もしもーし。…え?あ、うんうん・・・」

 楽しげに話すレイの顔の横で揺れているのは、ピンクのクマのストラップ。

 20分ほど話してやっとレイが電話を置くと、零はそれを手に取り、ストラップをしげしげと眺めた。

 「零さん、それ知ってる?」

 レイが言ったそばから、零はクマの背中をあけようとする。

 レイは慌てた。

 「あっ、ちょ、ダメだよー!」

 零は彼女に冷めた目をむける。

 「どうせ俺の名前書いて入れたんだろ?お前、マジナイって漢字で書けるか?」

 零からケイタイを取り返しながら、レイはそれに答える。

 「知らなぁい。もー。零さん以外の名前かもしんないじゃん。勝手に見ないでよ。」

 「ふふん、なら俺もせいせいする…まじない、ってのはな、“呪い”って書くんだ。」

 レイが意外そうな顔をする。

 「え、そうなの?えー、同じ字なんだぁ…えー…」

 残念がる声をだすレイに、零は無表情に言う。

 「だから、お前は俺にノロイをかけてることになる。」

 レイは動揺する。

 「えぇっ?そんな、そんなことないよー!」

 「くくっ、やっぱり俺なんじゃねえか。」

 あぅ、と小さくつぶやいてレイが下を向く。

 「…俺に呪いはきかない。“悪魔”ってのはな、憎しみだとか恨みだとか、そういうノロイの元になるモンでできてるんだ。」

 「違うよ?」

 少し顔を上げたレイは、悲しそうでいて、だけどちょっとだけスネた表情をしていた。

 「零さんに、かけてるんじゃないもん。あたしが、もっと勇気を持てるように、クマさんに応援してもらうんだもん。」

 「は?」

 「それにー、このオマジナイは、憎しみとかうらみなんて、全然関係ないじゃん。」

 視線に少々の呆れをこめ、零は呪いの仕組みをさらに説明してやる。

 「最初はな。だが、好きな相手がいつまでも振り向かなければ…変わってくるもんなんだ。自分を見てくれない相手を憎んでみたり、相手の恋人を恨んでみたり。本当にそんなもんが効くとしたら、その時だろうよ。」

 零はピンクのクマを指差した。

 レイはハッキリ不機嫌な顔をしている。

 「そんなことないもん。あたしは、零さんを憎んだりしないし、もし…零さんに好きな人いるなら、応援するもん。その人とだって仲良くするよ。」

 天使の好みそうな言葉は、零をいつも苛立たせる。

 たとえそれを口にしたのが、気に入った相手であっても。

 「いい人のつもりか?それじゃ欲しい物は全部誰かにとられてオシマイだ。ほんっとにバカだなお前は。」

 レイがショックを受けた顔をしているのは、零の表情と声音が最早冗談を言っている時のそれではないからだ。

 子供であっても ゆうな(ユゥちゃん) の方が余程賢い、と零には思える。

 彼女と零の相性は悪くなかった。

 あいつなら、ノロイを利用しても俺を手に入れようとするだろう。

 他の女がいたなら消そうとする。

 ためらわないはずだ。

 ゆうな と主従契約を結びなおしたいと言ったら、応援するといったコイツはそれを許すだろうか。

 本気だと言えば、もしかしたら。

 零のアタマの中だけで行われた、レイを捨てるシミュレーション。

 さっきの言葉のせいでうつむいている彼女は、それを知っているかに見えた。

(続)

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