14 オマジナイ
「なゆ なゆ、見てぇ。」
ご機嫌のユゥちゃんが なゆ、こと子供の姿の零の目の前にぶら下げているのは、ピンク色のクマのストラップ。
小さなそのヌイグルミは、胸の部分にさらに小さな、真っ赤な色をしたハートがついていた。
零はそれを見て、むき出しの心臓に見えるな、という感想を持った。
もちろんそれがユゥちゃんとは違う見方と予想できるから、口には出さない。
「可愛いでしょー?パパとデートしてあげて買ってもらったの。」
「ヌイグルミに興味はない。」
零が話を切り上げようとすると、ユゥちゃんのことが気になっているミッチーは彼女の話題に反応した。
「あーっ、ユゥちゃん“オマジナイ ベア”買って貰ったの?スゴーイ!それ、効くんだよねー!」
零だけがそれを知らなかった。
「オマジナイベア?」
疑問を含んだ声に、ミッチーが説明でこたえる。
「そう。これさ、背中があくようになっててソコに願い事をかいていれておくと叶うんだ。ユゥちゃんのベアはピンクだから、恋が叶う“ラブリーベア”。」
「ふぅん。」
説明を聞きながら零は、心臓むき出しで背中がパックリ開いてて“可愛い”とはいい趣味だ、と思った。
そんな彼の前で、ユゥちゃんとミッチーがじゃれはじめる。
「ね、ユゥちゃん誰の名前書いたの?教えて。」
とミッチーが言い、
「ないしょー、きゃはは!」
ユゥちゃんは楽しそうに笑う。
零には答えがわかっている。
だから必死でそれを知りたがりつつ、“必死さ”は隠そうとするミッチーを見ているのが面白い。
零の教育が良いおかげで、ユゥちゃんもこの状況を楽しんでいた。
必死なのはミッチーひとりだ。
ミッチーのもやもやする気持ちを、もっと楽しみたいとも思ったが零の手には荷物がある。
特売のタマゴ他、本日の食卓に乗る予定のモノだ。
買い物帰りに呼び止められただけの彼は、さらに子供達の遊びに付き合う気はなかった。
「じゃあな。」
「えー、行っちゃうのぉ?」
引きとめようとするユゥちゃんを、いつもと同じように
「俺は忙しいんだ。」
という一言で撃退すると、さっさと背をむけて歩き出した。
(続)