続き 3
昔のドラマみたいだったが、子供の作り話にしては出来過ぎたそれに、御雷は揺り動かされた。
少し考えてから、彼はたずねた。
「でもな、俺が前に会ったのは、そのアニキの方なんだ。なのに弟が“おひさしぶり”って、アニキのフリをした。これは、なんでだ?」
「名前が同じだから、あっちも勘違いしたんじゃないか?つきあってる零なら自分のことだから、話あわせたんだろ。途中で気付いたろうが、修正しようにもアンタは怒っちまってるし。」
見てきたような(実際そうである)物言いだが、御雷はそれに気付くよりも話に納得していた。
「そ…か。なるほど、な。じゃ、ついでにもっときいてもいいか?」
零は良いとも嫌とも言わず、黙っている。
御雷は、なゆた についてずっと気になっていた事を口にした。
「あのさ、なゆたん なんでいつも居るんだ?家、帰ってないだろ?あのオヤジが意地悪だからか?」
前回会ったとき、元の姿だった頃の零は御雷の都合の悪い内面を丸裸にしてしまい、印象は最悪だった。
零はまたうつむいてみせる。
レイはハラハラして見守る。
「いや…母親のほうに、ギャクタイ、されてて。」
兄妹はのけぞった。
それぞれ違う意味で。
御雷は優しくはないが“可愛いモノ”に弱く、なゆた の見た目は、間違いなく可愛かった。
御雷は解決策を一緒に考えようとする。
「オヤジは何もしてくれないのか?弟の家にひきとってもらうとか。」
なゆた、零は弱々しく首を横に振った。
「父親は、精神的にオカシくなった母親の相手で精一杯なんだ。弟の方の零も、ばあさんが3年
前から入院して、そのせいで じいさんも参ってて
世話をしなくちゃならなくて、だから、レイが。」
ここで零がレイに視線をやる。
あわせろ、という合図。
レイはうなずいた。
「そ、そうなの!零さんタイヘンだから、あたしがね?でもれ、じゃない、なゆくんイイ子だから全然手がかからなくて、返って助かってるくらいだよね、ねー?」
零の話は何もかもが、テレビの中のようだった。
あとでレイが何気なくたずねてみたところ、事実テレビドラマとニュースなんかを参考にでっちあげたということだった。
それでも、全く信じられないということもなく、というより結果的に御雷は全て信じた。
「そっか、タイヘンだったんだな、なゆ太…。」
そっと御雷に抱きしめられた零のすごく迷惑そうな顔が、レイからは丸見えだった。
「あは、あはは、そうなの。だから、今までどおりでいいでしょ?お兄ちゃん。」
やや乾いた笑いと共に、レイが言うと、御雷は冷たい顔で答えた。
「あぁ、その弟くんを認めるかどうかは別の話としてな。」
「じょっ、女装はやめてよね!もうバレてるんだから…あの、お兄さんから聞いてるし。」
本当は、同一人物だから知っているだけのことだが、レイなりに気をつかう。
兄はさらに言う。
「じゃ面接な。ぜってー不合格、うん、ウソとかついたし。」
「話あわせた、って言ったでしょ?だいたい最初から不合格じゃ意味ないじゃん!」
レイは不満を口にし、零は何も言わなかった。
結局、零が二人に増えてしまい変にフクザツになったが、おかげで、どの零がレイの周りをうろついても不自然ではなくなった。
もちろん、なゆた の父親である“大きいほうの零”も。
その日はそのまま、御雷は零が戻ってこないようにとか何とか言って泊り込み、“可愛いなゆた”と風呂に入って彼のヘソを曲げさせた。
(続)