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居候日記  作者: narrow
7/95

続き 6

 「・・・スズキさんの目ってぇ、すごくキレイですねぇー。」

 カウンターに身を乗り出して、さらにスズキに顔を近づけ、うっとりとした目をしてみせる御雷。

 キスを誘っている、ように見えるのはきっちり計算ずみ。

 レイの口真似も忘れない。

 その性質は小悪魔なんてカワイラシイものではなく、悪魔そのものだが、残念ながら今のところ御雷は正真正銘、人間だ。

 さっきから邪魔をしないように背景と化している零は、何の表情も浮かべてはいないのだが、良くやるよ、とでも思っているふうに見える。

 実際、たしかにそう思っていた彼は、その光景に軽くタメイキをつく。

 自分がしかけた事とはいえ、あんなにハマるスズキがあまりにも情けないのだ。

 面白い光景ではあるし、予想通りでもあるのだが、長い長い腐れ縁の中で、多少相手を認めていた。

 それが、オカマ相手にあのザマでは少々あきれてしまう。

 と、ここで状況にちょっとした変化がおきた。

 「ちょっとアンタ!スズキさんに何してくれてんだよ!」

 さっき無視された女の子だ。

 せいいっぱいドスをきかせた声を出し、御雷をにらみつけている。

 「きゃっ、ご、ごめんなさい・・・」

 これっぽっちも気にしちゃいないくせに、縮こまって見せる御雷の演技は、やはりなかなかのものだった。

 このまま三角関係めいた寸劇を見物するのも面白いが、当初の目的からはそれてしまう。

 軌道修正すべきか零が考えていると、おだやかでない声をききつけ、奥からもう一人の青年が出てきた。

 「そーこちゃん、どした?お客さんにそんなクチきいちゃダメっしょ?」

 「うっさいなー、あっちいけよヒサシ!あの女スズキさんにヘンなことしようとしたんだよ!」

 ヒサシと呼ばれた、オタクっぽいさっきの長髪青年は、女の子、そーこちゃんをなだめようとしている。

 が、青年のほうがだいぶ年上に見えるのに、全く相手にされていない。

 それどころか、そーこ の剣幕に押されてしまい、口をつぐんでしまった。

 「ちょっと、ケンカしないで、僕は大丈夫だから、ね?ほら、そーこちゃん、怖いカオしないで、ね?」

 「だってだって、スズキさんあの女ぁ!」

 「ミライさん、でしょ?ちょっと失礼だよ。」

 やはり少々手を貸すべきか、と零は後からわりこんだ二人を排除しようとしたが、ふと妙におとなしい御雷が気になった。

 見れば彼は、真剣なまなざしで、スズキを見つめていた。

 おだやかな笑みを絶やさず、不満を訴える そーこ をやんわりとなだめ続けているスズキを、しばらくながめたあと、突然御雷は言った。

 「なゆ太、帰っぞ。」

 「何だと?」

 低くつぶやいた御雷の声は、男丸出しだったが、幸いスズキは そーこ をなだめていて聞いていなかったようだった。

 お取り込み中でこちらの様子に気づいていないスズキたちに、さっさと背をむけて御雷は出て行こうとする。

 後を追いながら、零は問いただした。

 「おい、御雷、どうした?こんなアッサリ引き下がるなんてお前らしくないだろ。」

 いつもしつこいと思っているのが遠まわしににじんでいるが、御雷には伝わらない。

 「なゆ太はさ、オコチャマだからわかんねーかもしんねーけど、お兄ちゃん、アイツは大丈夫だと思う。」

 零を見下ろして、すこしゆがんだカオで笑った御雷は、なんだか泣きそうに見えた。

 その表情は、彼には珍しく邪気のない、妹のために自分の痛みをこらえている、優しい兄そのものだった。

 「・・・キメぇ顔。もういい、この役立たず。」

 そのキメぇ顔を見て、御雷の気が変わらないことを悟った零は、冷たい言葉を吐き捨て、先に出て行こうとした。

 「はは、なゆたんキビしー・・・」

 力なく笑う御雷をおいて。

 そんな零の目の前で、彼に反応したわけでもなく店のドアが開く。

 「あ。」

 と、声をだしたのはレイだった。

 ちょうど店に入ってくる所で、はちあわせた。

 「う。」

 失敗したとはいえ、スズキに御雷をけしかけた現場で、レイと遭遇してしまった零。

 ちょっと、ピンチだ。

 零の後ろの大問題に、レイが気づく。

 「あっ、あぁーっ!!お兄ちゃん!!!」

 「よー、レイ。」

 「ぁ、レイちゃ、お兄ちゃあーーーん?!!」

 上から、レイ、御雷、スズキ。

 ほとんど同時に飛び交ったこれらの声で、さらに自分に不利に傾いた状況を感じ、零は文字通りその場から姿を消した。

 御雷の腕から逃げたときのように、姿かたちを変えてこの場から逃げ出したのだ。

 軽い混乱に乗じて。

(続)

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