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居候日記  作者: narrow
69/95

続き

    ◆

 「新しい彼氏できたらお兄ちゃんに言えって、いつも言ってるだろ?」

 これに対してレイが言い返す。

 「言ったら邪魔しにくるでしょー?てか零さんは、あっ!」

 報告などすれば、すぐブチ壊しにくる兄だった。

 もちろん、女装で。

 それを途中まで指摘して、レイは零がすでに襲われていた事を思い出したらしく、言葉につまる。

 零と御雷は、ずっと以前零がまだ“元の姿”だった頃に一度会っていた。

 それはランコントルのみんなと同じだったが、あちらではレイの知らないところで記憶の修正がなされていた。

 御雷にも同じことができれば、何の問題もない。

 しかし、彼に対してそういった“操作”をする事はレイが固く禁じていた。

 御雷が気付く。

 「れ、い?れいって、あの零?」

 御雷の言う“あの零”と今の姿は、かなり離れていた。

 名前の事は、どちらも零がつくのだという事にして兄弟とでも言いはるテもあるのだが、それでは両方とつきあったことになってしまう。

 それはレイの人格から言って、話にムリがあった。

 ここは同一人物で通すしかない。

 レイの兄なら、バカさ加減も似ているはずだ、似ててくれ。

 零はそう思った。

 「あ、お兄さん、お久しぶりです。」

 にこりとした零に、御雷が笑顔を見せることはなかった。

 不信感もあらわに、零を観察している。

 「いや、ぜってー、違うだろ。何だ?弟かナンかか?」

 零は動じず、ごり押しする。

 「いえ?俺ですよ。確かにかなり雰囲気変わりましたけどね。」

 同意を求めるため、自然にレイに笑いかけると慌てて彼女も同調した。

 「 あっ、うん、そーだよね、すっごいイメチェンしたんだよね!」

 不自然にニコニコと笑うレイ。

 御雷の目が険しさを増した。

 「冗談ならこのへんでやめとけ。面白くねぇ。どう考えたって別人だろ、イメチェンで背が縮むかよ。前会ったヤツは確実にもっとデカかった。」

 それでもまだ零は笑っていた。

 顔色一つ変えずに。

 「あぁ、あの頃は威圧感あるって言われてましたから。気のせいですよ。」

 御雷は、ふざけやがって、と低くつぶやくとレイに視線を移した。

 「レイ、お兄ちゃん送ってやるから、今すぐ実家帰れ。俺にウソついてまでこんな怪しいヤツらと付き合うなんて、いくらなんでもおかしーわ、お前。」

 御雷は本気だった。

 レイが逆らう。

 「ヤツらってナニ?零さんは一人だよ。」

 御雷の表情がさらに不機嫌に傾く。

 「お前まで、まだ言い張るか?言いたくなかったけどな…こんなこと。じゃ言うわ。兄弟両方とデキちゃっただけの話だろ?それをヘッタくそなウソでゴマカし切れると思ったんだよな?」

 そっちか!

 零は心の中でツッコミ半分に思った。

 レイの人格を無視して自分の基準で状況を判断するとは、少なくともバカだという部分だけにおいては零の予想通りだった。

 思えばバカを相手にするのに、変にヒネりを加えることもなかった、と零は少し悔やんだ。

 後の祭りだった。

 御雷の表情は、怒りだけでない暗さをただよわせていた。

 彼は妹が大好きだったから。

 おかしな意味合いにおいても、そうでない意味でも。

 これにレイが思いっきりキレた。

 「なっなっなに何言ってんのぉ?!」

 興奮してうまく言葉が出てこない。

 顔も赤い。

 「お兄ちゃんと一緒にしないでよ!」

 憤怒のあまり、ストレートなののしりが兄を直撃した。

 御雷はひるまない。

 ののしられ慣れている彼は、打たれ強かった。

 「うるせぇっ、お前の言ってる通りならソイツ人間じゃねえだろが!それとも急に背が縮むアヤしい病気か?どっちにしろ“そんなモン”と一緒にほっぽっとけるか!」

 「人間じゃなくたって」

 レイが真実を口にしかけ、零が素早くそれを片手で制する。

 つないだ手が、はなれた。

 「レイ、それじゃ俺がバケモノみたいだろ?」

 零は、ありえない冗談を聞いてしまったという顔で軽く笑う。

 レイは一応黙ったが、まだ何かいいたそうにしていた。

 そのレイの腕をつかんで、御雷は自分の方へひっぱった。

 「お兄ちゃん?」

 呼ばれても御雷はレイでなく、零のほうをみていた。

 「手ぇ切れ。な?どっちもだ。」

 兄弟どちらも、ということだろう。

 零は困惑した表情を作る。

 「誤解です、お兄さん。…でも俺、今日はこれで失礼しますね。」

 片手に持ったスーパーの袋を、レイの方へ差し出した。

 「レイ、悪いけどこれ、持てるか?」

 「え?うん、でも零さん」

 あの部屋のほかに、どこへ帰るのかが気になるのだろう。

 だが、このまま話を続けても今の零と冷静でない御雷では、うまくまとめるのは難しい。

 「じゃ。」

 短く言って、御雷に軽く頭を下げると、零はレイの部屋とは違う方向へ走り出した。

 追いかけようとするレイの腕は、御雷にしっかりとつかまれていた。

 「え、零さん、零さーん!」

(続)

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