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居候日記  作者: narrow
67/95

続き 3

    ◆

 同日、夕食時。

 「食ったほうが治りも早いぞ、スズキ。」

 困り顔のスズキを見ながら、俺は愉快さに任せて微笑んだ。

 「だからって、でもぉ。」

 スズキは弱った声を出して、俺を見る。

 俺は揺るがない。

 「優しくしてもらうと、それも治りがいいんだろう?」

 レイもハシでつまんだオカズを差し出して言う。 

 「エンリョしちゃダメだよー、はいアーン。」

 「手伝おうか?」

 俺は言って後ろにまわり、スズキの顔をつかむと口をムリヤリあけさせた。

    ◆

 その後のある日。

 「やっぱり、直接触ったほうがいいだろう。」

 「いやー、零さん、あたしそれはちょっと・・・」

 「ぼ、僕も困る!」

 「いいから脱げっ!」

 腕がない体にはひっかかりもなく、スズキの上半身はカンタンにムくことができた。

 「ふっ、別にいやらしいコトをさせようってワケじゃない。ただのマッサージだよ、マッサージ。」

 肩の傷跡だけでなく、翼があるハズの背中もなでてやれば治りが早くなるだろう、というのは当然イイワケだ。

 レイが抗議の声をあげた。

 「零さん今 超 悪人顔してるんだけど!」

 「そぉんなことないだろう、ほらこうだ、こう。」

 俺はレイの手をとってスズキの背に当てた。

 スズキの体がびくんと跳ね上がった。

 「く、く、くく、く。」

 笑いをこらえきれず、このイヤガラセは一度きりで失敗に終わった。

    ◆

 別の日。

 「ほらー、スズキさん照れないでー。」

 レイに化けてスズキにキスを迫ってみる。

 俺の変身は、スズキと違って完璧だ。

 「やだー!ばかー!やーめーてー!!」

 「本人が留守の今がチャンスだぞ?夢を叶えてやる、こっち向けよ。」

 「声っ、声だけ元に戻さないでキモチワルイ!君だってわかっててするわけないだろ!変態っ最低っっっ!」

 「はははは!冗談だ、ただのタイクツしのぎだ、はははははは!」

 久々に死ぬほど笑った。

    ◆

 からかい倒して、それでもまだ足りないのに、残念なことに変色はすぐ元に戻り、腕もしっかり実体のあるものが出来上がってしまった。

 これからはこちらからブレイブにでもいくか、子供“で”遊ぶしかない。

 スズキがきて以来、しばらくユゥたちとは会っていなかった。

 レイはにこやかに声をかけた。

 「もう大丈夫だね、スズキさん。退院オメデトウ。」

 スズキも笑う。

 「あは、ありがと、院長さん。」

 鳴神医院、という設定らしい。

 玄関に立つスズキは、本当にすっかり元通りだった。

 「ねえ、零くんちょっと。」

 部屋にいた俺を、スズキが呼ぶ。

 「なんだよ。」

 顔をむけると、手招きされた。

 「呼んでるんだから、こっち来てよ。」

 スズキがいうと、レイも賛同した。

 「お見送り、しよ?」

 俺は、渋々立ち上がる。

 めんどくせぇ。

 「治ったんならさっさとでてけ。」

 目の前のマヌケに声をかけてやると、ヤツは珍しく不敵な笑みを浮かべた。

 「こら。君の目的くらい、僕は最初から気付いてたんだからな?」

 俺は少し驚き、目を見張った。

 レイが俺を見る。

 じゃあ、わかっててレイとの接触を楽しんでたのか?

 コイツはそんなに器用だったか?

 そんなことより結果的に

 

 俺、カッコ悪くないか?

 

 一気に色んな考えがアタマにあふれた。

 スズキが、微笑む。

 「確かに、何されるかまではわからなかったし、僕のリアクションは演技じゃないよ。君のイタズラ自体は失敗してない。」

 なぜそんなことでスズキが俺をなぐさめるのかがちょっとわからないが、少しほっとする。

 「じゃ、どういうことだ?」

 訊いた俺に、スズキがおおいかぶさった。

 「ん?!」

 驚いて、声が出た。

 やわらかく、スズキに抱かれていた。

 けっこう、きもちわるい。

 「おい、キモチワルイ。それから、レイ、なんだその優しい目は。友情とか思ってるんだろう。勘違いだからな!」

 「そうだね」

 スズキが言った。

 同意するとは、意外だ。

 だが続きがあった。

 「これは僕の一方的な気持ちなんだろうね。でもね、ありがと、零。」

 腕に力がこもる。

 「放せ、本気でキモチワルイ。」

 俺がスズキの胸を押し、ひきはがそうとすると、案外カンタンに離れた。

 それでもスズキは笑っている。

 「反省したフリしても、いいこと言っても、そんなカンタンに君が変わるワケない。でもね、言葉じゃない。僕は、君を信じたんだ。これからも、信じる。もう迷わない。」

 ちょっと意味がわからない部分がある。

 だが、それで一つだけわかった。

 俺を信じられなくなって、その迷いが影を呼び寄せたということだろう。

 「信じるな、“悪魔”なんか。」

 俺はスズキのバカさ加減に嫌気が差し、吐き捨てた。

 スズキは、笑ったままで目を伏せ、ゆっくり首を左右に振った。

 「“悪魔”かどうかなんて、どうでもいいことだよ。君は君、“零”だ。」

 俺がその意味を考えているうちに、スズキはレイに小さく手を振り、またね、と言って出て行った。

 閉まったドアに鍵をかけて、レイがつぶやく。

 「片思いなんかじゃないと思うな、あたし。」

 「あ?」

 俺が聞き返すと、レイは俺の表情をうかがうそぶりを見せた。

 「さっきの話、友情。あたしと違ってちゃんと両想いになってると思うよ、零さんたち。」

 微笑むその頬を、本気で引きちぎれるくらい力いっぱいユビでつまんで引っ張った。

 「ぃぎゃーーーーっっっ!」

 「二度と言うな、気色悪い!」

 はっきりした不快感と同時に、どこか落ち着かない感覚。

 それらも、これからもっと馴れ馴れしくなりそうなスズキのことも、レイのおかしな誤解も全てはこの一言に尽きる。

 「めんどくせぇ。」

 

 

 そうだ、面倒なんだ

 

 それでも 君は ・・・

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