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居候日記  作者: narrow
66/95

続き 2

 俺は、この瞬間に決意した。

 この俺の全力の演技で、悪魔としてのプライドをかけて奴らと勝負することを。

 タダでスズキにいい思いをさせるのは、絶対にガマンならなかった。

 素直になれないけれど、失いかけてはじめて気付いた友の大切さ。

 それが俺の演技プランだ。

 行くぞ。

 まず、スズキはこちらの心が読める。

 探りを入れられる前に、強い自責にかられた自分、を しっかりイメージして、そこに入り込む。

 実際にスズキを傷つけたことで自分を責めるのは、俺には難しい。

 今まで食ってきた人間たちの感情から、それらしいものを思い出し、分析して自分なりに再現する。

 ここ数百年は出した覚えが無い本気の集中力で、そのシチュエーションに入り込んだ。

 とにかく大事なのは悲しみと、“しでかした感”だ。

 わざとらしくならないよう気をつけながら、わずかに目をふせる。

 「そう思われても、仕方ないな。」

 レイとスズキが、視線を合わせる気配。

 恐らく、信用していいのか迷っているのだろう。

 スズキが、口を開く。

 「・・・僕のため、なんだよね?」

 よりによってこの俺に、やさしさを期待した質問。

 どこまでバカなんだ…と、こんな考えはダメだな。

 俺は今“反省中”なんだ。

 ナンテ コト ヲ シテシマッタ ノ ダロウ

 心の中で“反省の呪文”を唱える。

 その上で口にする言葉を選ぶ。

 「それでも、腕がなければ自分では何もできない。みじめな思いを強いることは・・・。レイの言うとおり、黒くなっちまってるだけでも、“充分カワイソウ”だしな。」

 「あ・・・。」

 スズキは、その変色の原因を思い出す。

 そうさせた本人の言葉は、自責に聞こえたハズだ。

 しかもそれは治そうとして、つまり善意からの行動が裏目に出たものだ。

 当然、実際の俺は助けてやったのだから反省などしていない。

 遠まわしに恩を思い出させた上で着せてやっているわけだが、スズキは致命的に甘いヤツだった。

 すっかりカワイソウなモノを見る目になって、変にやわらかい声を出す。

 「零くん、やっぱり僕、君の言うとおりにしてみるよ。面倒かけちゃうかもしれないけど、甘えさせてもらう。」

 カンタンすぎるが、それでこそ“天使”だ。

 「そうか、お前がそのつもりなら、俺もできるだけ協力する。」

 どうせ面倒を見るのはレイだ。

 話がまとまったのに、スズキは困り顔を浮かべた。

 「でも僕、変身苦手でさ。こんなんなっちゃったし、うまくあの状態に戻れるかどうか・・・」

 想像力が足りないんじゃないか、とバカにしたいのをガマンして、俺は誘導してやることにした。

 「手伝ってやる。目は閉じた方が集中できるだろう。」 

 スズキは、黙って素直に目を閉じた。

 「まずは、元の自分を思い出せ。これは、さっきもできたな?」

 「うん。」

 そんな俺たちを、レイは珍しいモノを見る顔で、だが黙って見守る。

 俺は、スズキの両肩に手をおく。

 「あの時、俺はここからお前の腕を…落とした!」

 軽く叩くと、急にその部分の感触がなくなる。

 腕が消えた。

 「できたじゃないか、ぁあっ?!」

 褒めてやったのも束の間、出血が大サービスなことになっていた。

 腕が落ちた瞬間を思い描いたスズキは、盛大に血をまき散らし始めた。

 本人も気付き、動揺する。

 「うわっ、うわあっ、どうしよ、うわあーっ!」

 レイの悲鳴がかぶさる。

 「いやぁあーっ!」

 まるで事故現場だ。

 血と悲鳴には慣れているが、ここは収拾しなければ何もできない。

 俺はそれらに勝る大声を張り上げた。

 「うるせぇっ!!」

 すかさずスズキの傷口に、両側から手を当てる。

 「血は俺が止めた!」

 スズキはそれで正気を取り戻す。

 「ぁ、あれっ?そうだ、そうだよね。」

 血は消え、淡い光となってスズキの体に戻っていく。

 “なかったハズの”出血だからだろう。

 そうして、血が消えると元の変色した傷口が両肩に現れた。

 「まったく…」

 面倒なヤツだ、といいかけて慌てて口をつぐむ。

 もう少し長くいい人の芝居を続けなければ、ウソがバレてしまいそうだからだ。

 「ありがと、零くん。」

 スズキが微笑み、俺は二つの意味で胸をなでおろした。

 それでね、とスズキが俺の後ろを指差した。

 「レイちゃん、倒れちゃったみたいなんだけど。」

 今度はエンリョなく言わせてもらう。

 「めんどくせえヤツ。」

 他者と関わることは、本当にいつも面倒ばかり運んでくる。

 

 ・・・そうだ、面倒なんだ、僕を生かすのは。なのに、それでも“君”は、殺さない…

 

 あのときのスズキの言葉が、不意によみがえる。

 俺は、“忘れた”過去が気になっていた。

 だから、それを知っているスズキを殺さなかった。

 だけど今は、絶対に思い出すべきじゃない、とも思っている。

 思い出すべきでないなら、スズキは、いらない。

 なのに、それでも俺は、殺さない。

 気絶しているレイの顔をながめながら、俺は言った。

 「面倒だ、放っておこう。」

(続)

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