表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
居候日記  作者: narrow
65/95

続き

 「だいたい合ってるよ。」

 答えたのはスズキの声だった。

 「遅いお目覚めで。なんでそんな風になったか、覚えてるか?」

 腕がないと起き上がるのも難しいらしく、スズキは勢いをつけて腹筋だけで体を起した。

 「はっきり、ってワケじゃないけどね。・・・とりあえず、ごめん。」

 表情は暗い。

 「え?何で?何でケガした方が謝るの?」

 レイにはワケがわからない。

 「なんでもいいだろう。」

 過ぎたことだった。

 殺そうとした、のは俺の記憶がそうさせたせいで、肝心のその理由は“思い出して”いない。

 思い出したくない気がする。

 俺が流そうとした質問に、スズキが答える。

 「僕がいけなかったんだ。僕が、彼を殺そうとしたから。」

 「え」

 レイは不可解そうな顔をする。

 ふだんのスズキを知っていれば、信じられるはずがない。

 「正確にはお前じゃない、俺の“影”だ。」

 うつむいていたスズキが、さっと俺の方を見る。

 「違う!影なんかじゃない、あれは、記憶だよ。・・・大切な、だけど・・・。」

 強く打ち消したのは一瞬で、だんだんと声に力がなくなっていき、それから遠慮がちに、ほんのわずか寂しげに、笑った。

 「まだ、思い出せない?」

 「あぁ。」

 「そっ、か。」

 残念そうに、それでいてわかっていたようにいうと、スズキのカラダ全体が淡く光った。

 身体を復元しているのだろう。

 だが。

 「じゃ、僕は失礼するね。」

 と、出て行こうとするスズキに、とりあえず俺はわかりやすいところから指摘をしてやった。

 「おい、お前 透けてるぞ。」

 復元するにも、材料が絶対的に足りていないのだ。

 腕も翼も、パーツとしてはデカく、俺に比べれば大した力をもつわけでもないスズキの存在の3〜4割は食ってしまう。

 それを景気よく空気の中へ放ってしまった上に、もう一度、腕だか翼だかよくわからないモノを生やし、それも失っている。

 記憶がはっきりしないだけあって、ダメージの計算ができていなかったのだろう。

 それで、“元通り”に戻ろうとしたものだから、結果として半透明になってしまった。

 「ええっ?ウソッ!」

 驚いて声をあげるスズキに、俺はさらにツッコまねばならなかった。

 「なんで胸かくすんだ、バカ。それから、鏡見ろ。」

 レイの使っている卓上ミラーを差し出す。

 「うわぁナニこの顔!何、って、手ェー!」

 顔も、腕も、俺が治した部分には、黒々とアザがグロテスク極まりない模様を描いている。

 「お前がああなってたから、俺の力でも応急処置くらいはできたが、相性が悪かったみたいでな。それで外に出る気か?少なくともしばらく店には出れんぞ。」

 さっきから俺たちのやりとりを、心配そうに見守っていたレイがそこに入り込んでくる。

 「あのね、ウチ、いてもいいですよ?」

 笑った彼女から、スズキは腕で顔を隠した。

 「み、見ないでっ!あぁ、僕どうしよう、あー、あーもお・・・」

 その悩み方が、うっとうしかった。

 俺は面倒になり、レイに説得を任せることにした。

 目が合うと、レイはバカなりに空気を読んだ。

 「もう遅いですーぅ、しっかり見ちゃったし。ね、元に戻るまで、ウチにいましょ、スズキさん。ね?」

 自然に、スズキの奇妙な模様のついた手にレイが手をのばす。

 つきぬけた。

 「え?!」

 「あっ。」

 驚くレイとスズキ。

 「人間がさわるには密度がたりないんだ。わかったら戻れ、腕が無い方がケガ人らしい。」

 あきれた俺がそう言ってやると、レイがフォローのつもりなのか、スズキに言葉をかける。

 「あのっ、大丈夫です、あたしスズキさんなら怖くないですよ!」

 別に死んでるワケじゃないから、怖いはずもないのだが、バカなりのケナゲなセリフにスズキは少し笑って、また光った。

 「って、あれ?何か・・・」

 そこに現れたのは、腕のないスズキではなく、模様が浮かんだ腕を持ったまま、少年の姿に変わったスズキだった。

 俺は

 「不正解。」

 と言って鏡を差し出した。

 「わぁっなにこれ!なんでぇ?」

 「俺と同じだ。」

 足りない力の分、縮んだということだ。

 「あそっか、そうだよね。」

 「やーん、スズキさんかわいーっ。」

 顔、腕の変色をモノともせず、レイが金髪の美少年に食いついた。

 スズキはスズキで、舞い上がってだらしなくニヤける。

 「え?えへ。じゃこのままでもいっかな。」

 俺は素早く反対意見をはさむ。

 「いいわけないだろう、それじゃロクに同情を引けんぞ。」

 いつまでも弱ったまま、ここに居られても困る。

 というよりも、それでは みっともない姿をレイの前でイジり倒して楽しむことができない。

 スズキがムッとした顔をする。

 「同情じゃないもん。思いやりだもん。慈愛だもん。」

 “可愛い”スズキを、レイが甘やかす。

 「このままでいいよー、かわいいし、それに黒くなってるとこ、充分カワイソウだよ?」

 少し考えて、スズキは気づいてしまった。

 「ねえ、君もしかして、ケガした僕をからかって遊ぼうとか思ってない?」

 レイも

 「あ。」

 と言った後、非難のこもったまなざしで俺を見てきた。

(続)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ