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居候日記  作者: narrow
64/95

12 面倒

 実体がある状態で気絶したスズキは、ドアを通り抜けることができない。

 俺はドアを足でガンガン蹴りつけた。

 部屋から出てきたレイは、元の姿に戻った俺がスズキを抱いて立っている光景に、ぱかんとクチをあけたきり、数秒絶句していた。

 「それ、スズキさん?」

 やっとのことで出てきた言葉が疑問形なのは、スズキの上半身が俺の“出した”ジャケットでくるまれているせいだ。

 それでもカラダの大きさと、少しのぞいたストレートの長い金髪でだいたいわかる。

 そもそも、俺はコイツを探しに出たのだ。

 「ああ。」

 答えて、キッチンの床に放り出そうとすると、レイが慌てて止めた。

 「ちょっと!何でそこ?ちゃんとベッド連れてってあげてよ!」

 不本意だが、仕方ない。

 「舌打ちしたでしょ。」

 レイが顔をのぞきこんできたが、俺は少々の抗議をこめ、目をそらした。

 スズキをベッドに転がすと、俺はいつもどおり子供の姿に変わった。

 部屋の狭さが、それでだいぶマシになる。

 「ひゃっ・・・」

 レイが小さく悲鳴をあげた。

 転がしたはずみで、スズキにかけておいたジャケットがはだけたのだろう。

 「零さん、これ・・・」

 恐怖、混乱、憐憫が同時に強くレイの顔に浮かぶ。

 「俺が痛めつけて、俺が治した。」

 「治ってないよ!」

 説明と同時にツッコミが返ってきた。

 「待て待て。」

 「きゅきゅきゅ救急車!!ヒドイよ零さん!ヒドイ!!」

 レイが携帯に手を伸ばす。

 「だから待て!」

 大きな声を出したのは、泣きそうな顔にイラっときたせいもある。

 「暴れたから仕方なかった。それに、人間じゃないのは知ってるだろう?救急車なんか呼んでどうする気だ。」

 少し迷ってから、救急車を呼ぶことを諦め、レイは携帯を置く。

 「だって・・・でも、何もここまで・・・」

 スズキのほうに向き直り、悲しげにその眠る顔を見つめる。

 「スズキさん・・・」

 青黒い頬に、そっと指先で触れた。

 俺はそれを注意深く観察する。

 思っていたとおりだった。

 何も気付かないレイを、からかうフリをする。

 「キスでもしてやれよ、目をさますかもしれないぞ?」

 レイが、キッとこちらをにらんだ。

 「ふざけてる場合じゃないでしょ?」

 かなり怒らせたようだ。

 「いいから、ちょっとやってみろ。」

 俺の言い方で、何か感じたのかレイは怒りをおさめた。

 ためらいがちに、スズキに顔を近づける。

 「・・・ぅん、じゃ、えと・・・やって、みるよ?」

 俺はうなずいた。

 ゆるくウエーブのかかったレイの髪が、スズキの顔にかかる。

 俺の方からは見えづらいが、頬にしたのだということはわかる。

 「おーい、そこじゃないだろ?」

 振り返ったレイの顔が、少し赤い。

 「あってるもんっ、友達なんだからっ。」

 必死なのが面白い。

 俺はわざと何でもない口調で、さらにからかう。

 「前にもしただろ、もう一回くらいサービスしてやれよ。緊急事態なんだから。」

 スズキが俺をたきつけようとして、目の前でそんなことをしてくれた過去がある。

 きゅうっとレイの眉尻が下がり、困惑全開の表情になる。

 「ちっがーうもんっ、あの時はギリギリで止めてくれたのー!お芝居だよ、知らなかったの?」

 知らなかった。

 俺、カッコ悪くないか?今。

 ・・・そういう時は、ゴマカすに限る。

 俺は全く動揺などしていないフリで、視線をスズキにうつした。

 ちょうどよく、変化が現れていた。

 「見ろ、レイ。」

 「え?」

 黒ずんでいたスズキの顔が、部分的にだが やや青みの残る肌色にまで戻っていた。

 「ウソ、なにこれ、どーゆーこと?」

 軽くパニクっているレイに、俺はさっきまで仮説でしかなかった自分の考えを話した。

 「コイツらにとって、同情はエネルギーになる。コイツとお前はオトモダチで、その結びつきの分大きなエネルギーが期待できる上に、お前はコイツにとっちゃ“好きな相手”で、その力は特別なものだろう。だから、コイツの世話は、お前が適任なんだ。今見たようにな。」

 そんなことを言われて、急に信じるのが難しいのかレイはぽかんとしている。

 「そう、なの?」

(続)

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