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居候日記  作者: narrow
62/95

続き 5

 つなぎ止める言葉を。

 「レイが!」

 あわてて、たぐる。

 「レイが心配してたんだ、あいつはどうする?守るって言ってたガキは?ブレイブは?」

 一言ごとにスズキは身をよじり、深く体を折っていく。

 「お前には関係ないっ!」

 叫んで顔だけを上げたスズキの目から光が走る。

 腕のあった場所には、鈍い銀色のいびつな大鎌が生え、零に襲いかかる。

 慌てるでもなく、零は後ろに身を引きながら横なぎの蹴りを繰り出した。

 「めんどくせぇ奴だな。」

 大鎌はサビきった金属のモロさであっさりと折れ、あとかたもなく崩れて消えた。

 血をだすことなく、スズキの肩口は、さらにえぐれた。

 「・・・そうだ、面倒なんだ、僕を生かすのは。なのに、それでも“君”は、殺さない…」

 疲れ切って、放心した顔のスズキがつぶやいた。

 零はそれに答える。

 「レイが泣くほうが面倒なんだ、使い魔としては。」

 はは、と乾いた笑いを漏らすと、スズキはまたつぶやく。

 「あのコの言うことなんか、いつも聞かないくせに。」

 殺意はもう消えていた。

 なにもかも諦めた顔だった。

 それでも敵意は完全に消えたわけではないが、零は気が楽になるのを感じた。

 殺さなくてすむことになのか、レイを悲しませなくてすむことになのか。

 「別に、いつも無視してるワケじゃない。」

 ほら、もういつもの会話だ。

 戻ってこい。

 零は知らぬうち、そう願っていた。

 うまく笑えないのか、スズキの顔がゆがんだ。

 「そうやって、僕を生かすためのイイワケを考えたり、ギリギリ手加減するのは、殺すより、ずっと面倒だよ。」

 殺意は、消えたのではなく、向きを変えたのかも知れない。

 「だから、レイが」

 「君は!」

 零のイイワケを、スズキがさえぎる。

 「君は、ホントはウソがうまい。僕は、君にだけ別れをつげて遠くに行ったとでも言えばいい。」

 「…」

 零は、一瞬言葉に詰まり、反論をさがす。

 「理由は。遠くに行かなきゃいけない理由なんか、お前にはないだろう?」

 どうしても殺さなくてはいけない理由も。

 絶望的に無表情な顔で、スズキが答える。

 「“さあな”。君らしい答えだろ。」

 完璧だった。

 零の態度次第で、レイはそれを信じるだろう。

 二人を“友達”と思っているのだから。

 「そうしてほしいのか?」

 「そう言った。」

 残念そうにスズキが笑った。

 その表情には、わずかにいつもの彼らしさがうかがえた。

 何も言えずにいる零に、スズキは続ける。

 「けど君はそうしなかった。こっちは本気で君を…。なのに、こんなに、言っても。…だから」

 スズキの体から、淡くあわく、揺らめく煙が立ちのぼりはじめた。

 「だから、僕は…きみ、を」

 つぶやくスズキの声が小さくなりはじめ、目つきもうつろになってきた。

 思わず、名を呼ぶ。

 「スズキ!」

 消えた腕と同じ色の煙。

 ゆらめきながら、後から後から湧き出ていく。

 スズキはまだ何か言い続けている。

 「しん じ…」

 しかし、最後の音がそれをかたどった唇から出てくることはなかった。

 彼の体から完全に力が抜け、その場に横たわる。

 消える。

 零は思った。

 主観的静寂の中、目の前の存在は変化を見せない。

 また気絶らしかった。

 もう無理に起こそうとは思わなかった。

 「ホントにめんどくせぇな、テメーは。」

 拍子抜けし、独り言が口をついてでた。

 その時唐突に、スズキのすぐそばに立つ影が見えた。

(続)

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