続き 5
つなぎ止める言葉を。
「レイが!」
あわてて、たぐる。
「レイが心配してたんだ、あいつはどうする?守るって言ってたガキは?ブレイブは?」
一言ごとにスズキは身をよじり、深く体を折っていく。
「お前には関係ないっ!」
叫んで顔だけを上げたスズキの目から光が走る。
腕のあった場所には、鈍い銀色のいびつな大鎌が生え、零に襲いかかる。
慌てるでもなく、零は後ろに身を引きながら横なぎの蹴りを繰り出した。
「めんどくせぇ奴だな。」
大鎌はサビきった金属のモロさであっさりと折れ、あとかたもなく崩れて消えた。
血をだすことなく、スズキの肩口は、さらにえぐれた。
「・・・そうだ、面倒なんだ、僕を生かすのは。なのに、それでも“君”は、殺さない…」
疲れ切って、放心した顔のスズキがつぶやいた。
零はそれに答える。
「レイが泣くほうが面倒なんだ、使い魔としては。」
はは、と乾いた笑いを漏らすと、スズキはまたつぶやく。
「あのコの言うことなんか、いつも聞かないくせに。」
殺意はもう消えていた。
なにもかも諦めた顔だった。
それでも敵意は完全に消えたわけではないが、零は気が楽になるのを感じた。
殺さなくてすむことになのか、レイを悲しませなくてすむことになのか。
「別に、いつも無視してるワケじゃない。」
ほら、もういつもの会話だ。
戻ってこい。
零は知らぬうち、そう願っていた。
うまく笑えないのか、スズキの顔がゆがんだ。
「そうやって、僕を生かすためのイイワケを考えたり、ギリギリ手加減するのは、殺すより、ずっと面倒だよ。」
殺意は、消えたのではなく、向きを変えたのかも知れない。
「だから、レイが」
「君は!」
零のイイワケを、スズキがさえぎる。
「君は、ホントはウソがうまい。僕は、君にだけ別れをつげて遠くに行ったとでも言えばいい。」
「…」
零は、一瞬言葉に詰まり、反論をさがす。
「理由は。遠くに行かなきゃいけない理由なんか、お前にはないだろう?」
どうしても殺さなくてはいけない理由も。
絶望的に無表情な顔で、スズキが答える。
「“さあな”。君らしい答えだろ。」
完璧だった。
零の態度次第で、レイはそれを信じるだろう。
二人を“友達”と思っているのだから。
「そうしてほしいのか?」
「そう言った。」
残念そうにスズキが笑った。
その表情には、わずかにいつもの彼らしさがうかがえた。
何も言えずにいる零に、スズキは続ける。
「けど君はそうしなかった。こっちは本気で君を…。なのに、こんなに、言っても。…だから」
スズキの体から、淡くあわく、揺らめく煙が立ちのぼりはじめた。
「だから、僕は…きみ、を」
つぶやくスズキの声が小さくなりはじめ、目つきもうつろになってきた。
思わず、名を呼ぶ。
「スズキ!」
消えた腕と同じ色の煙。
ゆらめきながら、後から後から湧き出ていく。
スズキはまだ何か言い続けている。
「しん じ…」
しかし、最後の音がそれをかたどった唇から出てくることはなかった。
彼の体から完全に力が抜け、その場に横たわる。
消える。
零は思った。
主観的静寂の中、目の前の存在は変化を見せない。
また気絶らしかった。
もう無理に起こそうとは思わなかった。
「ホントにめんどくせぇな、テメーは。」
拍子抜けし、独り言が口をついてでた。
その時唐突に、スズキのすぐそばに立つ影が見えた。
(続)