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居候日記  作者: narrow
61/95

続き 4

 “耳”を使うのはあきらめ、スズキの思考を意識した。

 

 ころして。

 

 ぎくりとして、零は一瞬スズキからわずかに意識をそらした。

 汚れ、ゆがんだスズキの顔を、あらためて見つめる。

 翼も両腕も失くし、そこから血はふきだし続け、地に這いつくばり、その姿はみじめで、今にも死にそうだ。

 それでも、本当は今すぐこの場から逃げる事ができる。

 零は今、スズキの動きを制限するような力はいっさい使っていないからだ。

 なのに、彼は死を望む。

 鼻からあごにかけて腫れ上がって変形した顔の、いまとなっては目だけに表情がよみとれた。

 底知れない悲しみ、何もかもを呑み込む諦念。

 最後の一撃をうながすように、スズキが目をとじ、涙がながれていく。

 抵抗の気配はない。

 「いったい、何があった。」

 きょう何度目の質問だろう。

 そして、何一つコイツは答えない。

 零はイライラしたが、これ以上何かすれば本当にスズキは死んでしまいそうだった。

 答えない彼の心をさぐる。

 

 お前は、思い出さない。

 殺せないなら、僕に救いはない。

 なら、死だけが僕を救える。

 この辛い記憶から、解放されるんだ。

 

 「記憶って・・・なんだ・・・」

 なにか思い出せそうな、だけどどうしてもわからない、あの感覚。

 零が考え込んでいる間に、わずかな物音がしてスズキの体から力がぬけた。

 気絶したらしい。

 本当に人間に似たその弱さに、小さく舌打ちすると零は彼の前髪を乱暴につかみ、顔を引き上げた。

 「起・き・ろ。」

 まぶたを閉じたままの顔にただよう、儚さ。

 流れ続ける血。

 ほうっておいても、死ぬ気がした。

 傷をふさぐなら、同じ天使じゃないとうまくいかないだろうな。

 そう思ってから気付く。

 今のコイツは、天使じゃない。

 俺の力でも、同化できるかもしれない。

 傷口をふさぐイメージで、力を注いでみる。

 思ったとおり、ひとまず血は止まった。

 腕を再生してやるのは、パーツの割合が大きすぎて いくらなんでも負担が大きかった。

 とりあえずこれで死ぬこともないが、拒否反応だろうか。

 傷口は黒く変色し、肉が盛り上がった表面は いぼが重なり合ってできたかと思うほどにでこぼこだった。

 「み、醜い・・・」

 思っても見なかった副作用に、零は思わずつぶやいた。

 それでもとにかく、一応の危機は去った。

 つかんだ前髪ごと、スズキの頭をゆらしてみる。

 「おー・・・い。」

 かくかくかく。

 「・・・」

 取れても、治せるしな。

 零は思った。

 跡のこるけど。

 がっくんがっくんがっくん。

 激しく高速で腕を前後させる。

 「あぐァ?!…あー…」

 今度はわりとすぐに反応が返ってきた。

 だらしない発音からすると、蹴った時にアゴをこわしたようだ。

 ついでにコレも治しておく。

 「アうっ…がぁ、ぃたっ…何を?」

 どうやら悪魔同士と言っても、やはり性質が全然違うらしく、確かにケガを治してやることはできたのだが、跡は残るわ痛いわで、あまり具合はよろしくなさそうだった。

 今度は顔面の下半分が、青黒いアザになった。

 「んー、形、は、戻った。」

 零の言葉で、スズキは自分の体の変化に気付く。

 「治した、のか?」

 「多少。」

 一瞬驚いたスズキの顔が、みるみる怒りにそまる。

 「殺せばよかったのに!忘れてたいんだろ?なら殺せ!」

 また同じことを言い始めた。

 「だから何のハナシだ!」

 話が見えず、零は苛立つ。

 「俺が忘れてんなら教えろ。それから、殺せ殺せってな、じゃそうしたら俺はレイに何ていえばいい?あ?!うまいイイワケがあるならそれも教えてくれよ、なあ!」

 逆に零の方から責めると、スズキはうつむき、苦しみだした。

 零のつかんでいた髪が引っ張られ、何本も一度にぞろりと抜けてスズキの頭部は自由になった。

 痛いはずだが、本人は気づいてさえいない。

 荒くなった息の間から言葉をしぼりだす。

 「ち、が、…君、嘘つき、イイワケ、なんて…」

 背を丸め、全身をこわばらせる。

 「おい…?」

 性質の違いすぎるチカラが体に入ったことが、毒として作用したのか。

 他愛ない会話の中でいつも見ている、少しスネた顔が不意に思い出され、一瞬で かき消える。

 消えていく。

(続)

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