続き 5
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中古ゲーム・マンガ・CDのブレイブ、と書かれたカンバンをかかげた店の前に立つのは、全身黒い服に身を包んだ男の子と、キレイなお姉さん。
「ここにいるワケね?その不審人物は。」
決して低くはなく、聞きようによって中性的にも聞こえる声は、女装した御雷のものだ。
「あぁ。けっこうレイにまとわりついて、ウゼぇんだよな。」
何か思い当たることでもあるように、見た目に合わない低く不機嫌な声を出したのは零。
レイと仲のいいスズキに御雷をけしかけて、適当なところで男とバラして笑ってやろう、という計画なのだった。
もちろん、その目的は御雷にも秘密だが。
御雷に直接、復讐するのは難しい。
でもウサは晴らしたい、というワケだ。
やつあたり、とも言う。
「じゃ、いきましょうか。」
ふぁさっ、っと髪をかきあげて、過剰に女らしく御雷が言った。
答えることなく、零はニヤリと笑った。
数歩あるくと、自動ドアが開く。
「っしゃぁせー」
うわの空なのに、なぜか感じ良く響く男の声が出迎えた。
「いらっしゃいまっせー」
元気のいい女の子の声がおいかける。
カツカツと小気味よい靴音を立てて、御雷がカウンターに近づいていく。
「あっのーう。」
ありもしない胸を意識させるような、見えそうで見えない絶妙な角度でカラダを傾けつつ、ねちゃぁっとした甘い声で御雷がカウンターの中にいる男を呼ぶ。
「はーい・・・」
ボンヤリした返事をしながらも、長い金髪の向こうの彼の目は、ゲーム画面に集中している。
動作チェック用の機械で、ゲームを楽しんでいるのだ。
後ろでは、運動不足そうな、これも長髪の青年がそのプレイを応援していた。
店員らしいのにまったく働いていないカウンター内の二人の代わりに、名札も何も、店員らしいアイテムを身につけていない少女が前に出てきた。
「いらっしゃいませ!なんか探してんスか?」
明るい髪色がよく似合う元気そうな女の子で、言葉づかいはなっちゃいないが、アイソよくニコニコと話しかけてくる。
零と御雷は彼女を無視した。
「スズキ、おいスズキ!」
零がイライラと呼びかける。
「待って今大事!」
スズキはうるさそうに止める。
「あのぅ、ダメ・・・ですか?」
どこかで聞いたことがある話し方。
レイに似ている、と認識する前にスズキはそちらを向いていた。
そこに立っている、レイそっくりな女性の姿に彼の手が止まった。
デレレヅデデデデンッ
ゲームオーバーらしい音がして、後ろで見ていた男が、ありぇねぇえ〜、と言いながら奥へ引っ込んだ。
「レイちゃん?・・・じゃ、ないよね」
声が全く違う。
なのに話し方も見た目もそっくりだ。
「レイの姉のぉ、ミライっていいますぅ。」
「あ、・・・そっくり、ですね、僕は・・・」
スズキが名乗ろうとすると、先にミライのほうから彼の名を口にした。
「スズキさん、ですよね?妹から聞いてます。とっっても、仲良しだって。」
とっても、というあたりに妙に力がこもっていて、少し違和感があったが、レイにそっくりなミライの笑顔に、釘付けになっているスズキは気づく余裕などなさそうだった。
その笑顔が妹に比べるといくらか邪悪なことにも。
なぜなら零とレイを応援してはいるものの、本当はスズキもレイが好きなのだから。
そのことはレイも零も知っているが、レイは別に気にしていない。
スズキが、割り込む気はないと宣言しているからだ。
零は、そんなスズキとレイがちょくちょく二人だけでいるのが(バイト先で少し話す程度でも)気に入らない。
それなりに整った顔立ちとスタイルで、誰にでも優しくいつも笑顔でいるスズキと、見た目こそ美少年とはいえまだコドモで、態度はデカいわ意地は悪いわの零では、いつ逆転されるかわかったもんじゃないのである。
それでも反省することなく、ただスズキを邪魔者だと思っているあたり、救いようがない。
「ところで、どこかでお会いしませんでしたっけ?」
御雷が少し顔を近づけてスズキをのぞきこむ。
以前、女装でないときにチラっと会っているのだが、お互い名乗ってもおらず、御雷にいたってはヒドい二日酔いで、よく覚えていないのだった。
もちろん、スズキはそのヨッパライと、目の前にいるレイそっくりな女性(?)が同一人物だとは思いもよらない。
不意打ちに頬を赤らめながら、スズキはかすかに首を横に振った。
(続)