続き 2
笑っていない。
人目がありすぎる中で、派手な超常現象を起したスズキに、零が驚く。
「お・まっ、こんな所で何するんだ。」
彼らの周囲にいた人々が、いっせいにスズキに注目し、ざわめく。
「何?気のせいだ。」
冷ややかにスズキが言うと、彼を中心に光の円が広がりながら淡く駆け抜けていく。
その銀色の光が走った人々は、急にスズキから関心を失った。
何か見た、が。
気のせいだ。
とでもいうように。
こんな話し方をする男ではない。
こんな力の使い方もしない。
怒っているのだとしても、零の知るスズキはもっと暑苦しかった。
何の表情もない顔、敵意しか感じない話し方。
いつか、甘えるなと突き放された時でさえ、こんなに遠くは感じなかった。
「スズキ、お前どうかしたか?」
急に姿を消したことよりも、彼の変わりようのほうが気にかかった。
周囲にはばかることなく、光からヒトに変わったり、必要かそうでないかに関わらず、あたりにいた人間全てに無差別に“何も見なかった”暗示をかけたり、チカラの無駄遣いぶりを見れば、存在の危機はとりあえずなさそうだった。
だが、それ以外はすべてがどうかしている。
あたたかみのある青ではない、銀色の光も。
スズキは答える。
「いいや、今が正常なんだ。どうしてもっと早」
淡々と吐き出された言葉の途中、零が軽く後ろへ跳ぶ。
「く、こうしなかったんだろう。悪魔」
スズキは話し続けている。
零のいた場所には、銀色の大きな斧が突き立っていた。
柄にあたる部分はなく、刃の伸びる先をだどると、スズキの背につながっている。
「と人間なんて愛し合えるハズないじゃないか。だって、あの時もそうだったんだから!」
路面に突き立っていた斧が生き物の動きで抜けると、そこに傷はない。
スズキの背でもう一つの刃と対をなすそれは、広げると両方で3m以上はありそうだ。
零は、目を見張った。
天使たち特有の、羽毛をかたどった光でできた翼を、スズキも持っていたハズだった。
それが今は、ギラギラ光る刃に変わってしまっている。
零は混乱した。
天使ではなくなったスズキに。
彼から殺意を向けられることに。
「なんだ、なんなんだ?!何だそのハネ!それに何の話をしてる?」
「じゃ僕も訊こう。」
いいながらスズキが跳んだ。
銀翼が伸びて零の背後に刺さり、そこに向かって一瞬で縮む。
「スズキって、誰だ?」
そのスピードと、スズキのパワーが合わさった拳を、零はギリギリ顔の前で受け止めた。
受けたこぶしを、逆に握り締める。
短かった髪が、一気に伸びて無数の束をなし、スズキに襲い掛かった。
「ふざけるな。」
強く言った零の髪は、瞬時にスズキの全身をからめとった。
銀の翼も、それを断ち切れず縛り付けられる。
「このままぶち殺してもいいんだぞ。」
零をにらみつけていたスズキの姿が一瞬光り、次の瞬間にはそのカラダは髪の拘束から抜け出ていた。
スズキは言う。
「お前こそふざけてるんじゃないか?悪魔。」
スズキが半身をひねって、一歩踏み出す。
その勢いのままに、背の銀翼が零に向かって射出された。
回転しながら高速で飛んでくる斧は、零にとって動きが読めないほどではなかった。
零はそれが自分を通過する瞬間にあわせ、軌道部分の自分をあいまいにほどく。
空気を切ることなどできないから、それでかわせたハズ、だった。
「んっ?!」
零がうめく。
「僕は、本気だ。」
スズキが、低く言った。
刃が空気を切れなくとも、刃のまとう殺気はある種の“空気”としてそこに働きかけることができる。
斬ることが、できる。
零を斬り付けた斧は、ブーメランのようにスズキの背に戻った。
零は、まだ状況がのみこめなかった。
「今さらか?!もうかなわんと知ってるだろう?それとも俺に殺されたいのか?」
脅し文句のようでいて、受身に回っている今は強がりにも聞こえる。
しかし、どちらでもない。
ただ、疑問だった。
零が本気でそうしようと思えば、スズキを殺すのは難しくない。
スズキは急に動きをとめ、翼を収めた。
ゆっくり歩み寄る。
零は、少し警戒しながら、それでも危険は感じていなかった。
スズキは零のすぐ前で止まると、彼の両肩にそれぞれ手をおく。
チカラがこもる。
「できもしないクセに。」
歪んだ顔で笑い、全身から殺意をにじませた。
(続)