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居候日記  作者: narrow
59/95

続き 2

 笑っていない。

 人目がありすぎる中で、派手な超常現象を起したスズキに、零が驚く。

 「お・まっ、こんな所で何するんだ。」

 彼らの周囲にいた人々が、いっせいにスズキに注目し、ざわめく。

 「何?気のせいだ。」

 冷ややかにスズキが言うと、彼を中心に光の円が広がりながら淡く駆け抜けていく。

 その銀色の光が走った人々は、急にスズキから関心を失った。

 何か見た、が。

 

 気のせいだ。

 

 とでもいうように。

 こんな話し方をする男ではない。

 こんな力の使い方もしない。

 怒っているのだとしても、零の知るスズキはもっと暑苦しかった。

 何の表情もない顔、敵意しか感じない話し方。

 いつか、甘えるなと突き放された時でさえ、こんなに遠くは感じなかった。

 「スズキ、お前どうかしたか?」

 急に姿を消したことよりも、彼の変わりようのほうが気にかかった。

 周囲にはばかることなく、光からヒトに変わったり、必要かそうでないかに関わらず、あたりにいた人間全てに無差別に“何も見なかった”暗示をかけたり、チカラの無駄遣いぶりを見れば、存在の危機はとりあえずなさそうだった。

 だが、それ以外はすべてがどうかしている。

 あたたかみのある青ではない、銀色の光も。

 スズキは答える。

 「いいや、今が正常なんだ。どうしてもっと早」

 淡々と吐き出された言葉の途中、零が軽く後ろへ跳ぶ。

 「く、こうしなかったんだろう。悪魔」

 スズキは話し続けている。

 零のいた場所には、銀色の大きな斧が突き立っていた。

 柄にあたる部分はなく、刃の伸びる先をだどると、スズキの背につながっている。

 「と人間なんて愛し合えるハズないじゃないか。だって、あの時もそうだったんだから!」

 路面に突き立っていた斧が生き物の動きで抜けると、そこに傷はない。

 スズキの背でもう一つの刃と対をなすそれは、広げると両方で3m以上はありそうだ。

 零は、目を見張った。

 天使たち特有の、羽毛をかたどった光でできた翼を、スズキも持っていたハズだった。

 それが今は、ギラギラ光る刃に変わってしまっている。

 零は混乱した。

 天使ではなくなったスズキに。

 彼から殺意を向けられることに。

 「なんだ、なんなんだ?!何だそのハネ!それに何の話をしてる?」

 「じゃ僕も訊こう。」

 いいながらスズキが跳んだ。

 銀翼が伸びて零の背後に刺さり、そこに向かって一瞬で縮む。

 「スズキって、誰だ?」

 そのスピードと、スズキのパワーが合わさった拳を、零はギリギリ顔の前で受け止めた。

 受けたこぶしを、逆に握り締める。

 短かった髪が、一気に伸びて無数の束をなし、スズキに襲い掛かった。

 「ふざけるな。」

 強く言った零の髪は、瞬時にスズキの全身をからめとった。

 銀の翼も、それを断ち切れず縛り付けられる。

 「このままぶち殺してもいいんだぞ。」

 零をにらみつけていたスズキの姿が一瞬光り、次の瞬間にはそのカラダは髪の拘束から抜け出ていた。

 スズキは言う。

 「お前こそふざけてるんじゃないか?悪魔。」

 スズキが半身をひねって、一歩踏み出す。

 その勢いのままに、背の銀翼が零に向かって射出された。

 回転しながら高速で飛んでくる斧は、零にとって動きが読めないほどではなかった。

 零はそれが自分を通過する瞬間にあわせ、軌道部分の自分をあいまいにほどく。

 空気を切ることなどできないから、それでかわせたハズ、だった。

 「んっ?!」

 零がうめく。

 「僕は、本気だ。」

 スズキが、低く言った。

 刃が空気を切れなくとも、刃のまとう殺気はある種の“空気”としてそこに働きかけることができる。

 斬ることが、できる。

 零を斬り付けた斧は、ブーメランのようにスズキの背に戻った。

 零は、まだ状況がのみこめなかった。

 「今さらか?!もうかなわんと知ってるだろう?それとも俺に殺されたいのか?」

 脅し文句のようでいて、受身に回っている今は強がりにも聞こえる。

 しかし、どちらでもない。

 ただ、疑問だった。

 零が本気でそうしようと思えば、スズキを殺すのは難しくない。

 スズキは急に動きをとめ、翼を収めた。

 ゆっくり歩み寄る。

 零は、少し警戒しながら、それでも危険は感じていなかった。

 スズキは零のすぐ前で止まると、彼の両肩にそれぞれ手をおく。

 チカラがこもる。

 「できもしないクセに。」

 歪んだ顔で笑い、全身から殺意をにじませた。

(続)

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