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居候日記  作者: narrow
58/95

続き

   ◆

 「ブレイブのヒトがね、無断欠勤もう三日目って、心配してて、でも手が足りなくなっちゃうから、新しいヒト探そうかって。」

 帰ってくるなり、レイは自分自身ひどく心配そうに、スズキがいなくなった事を話し始めた。

 零は、眉一つ動かさない。

 「そうか、大変だな。」

 一応、話を聞いていた事だけは伝えておこうと、返事はする。

 その態度に、レイが軽くキレた。

 「何ソレ、心こもってない。心配じゃないの?」

 零は相手にしない。

 「あいつはガキじゃない。」

 そう言う彼の見た目は子供だが、面白がる場面でもなく、レイはさらに言いつのる。

 「だって無断欠勤だよ?もう三日なんだよ?いるのに仕事しないことはあっても、来てないなんてスズキさんらしくないよ、何かあったんだよ!」

 一人焦り始めたレイに、零はなかば叱り付ける調子で返す。

 「あったら何だ、俺が何かしなきゃならないのか?」

 「友達でしょ?」

 「違う。」

 「ちがくない!だって零さん、嫌いなら相手にしないもん。」

 レイは顔を赤くして、目をうるませている。

 対する零は、声にけだるさがにじむ。

 「あっちが突っかかってくるからだ。」

 「もういいよ、じゃ勝手に意地張ってなよ。あたし、ちょっと探しに行ってくる。」

 レイは、何を言ってもダメだと思ったらしい。

 「メシは?」

 「あとでいい。」

 玄関へ向かうレイは、零を振り返ろうともしない。

 「どこを探す気だ?」

 靴をはくレイに、零が問う。

 「いろいろ!」

 珍しく、レイの声が苛立っている。

 「俺が行く方が早い。」

 「え?」

 ドアノブに手をかけたレイが振り向くと、もう零の姿はそこになかった。

 気温の下がり始めた薄闇は、気体となった零自身が世界を覆っているようだった。

 まさしくそんな具合に、零はほどいた自分を意識できるギリギリの範囲まで広げ、暑苦しくて面倒くさい、よく知る気配を探す。

 こうして探さなければ、スズキが実体をほどいていたらレイたちにはわからない。

 ヒトや動物以外のおかしな気配はいくつかあるが、覚えのあるものではなかった。

 気付かれる前に一瞬でその範囲から移動する。

 零たちの部屋の周囲にも、ブレイブ周辺にもいない。

 なら、あそこはどうだろう。

 零はさらに移動した。

 

 夜とは言っても、町には明かりがあふれている。

 その中で、ゆっくりと、よく見なければわからないほど、ほんのわずかに明るさのトーンを変化させている店があった。

 明るくなったり、薄暗くなったり、しかしその差は、気のせいと思えるほど。

 ランコントルだった。

 そこに零は、スズキの気配を感じていた。

 少し違和感のある、それでもよく知っている気配を。

 おそらくスズキは、零と同じように気体化しているのだろう。

 目標を探り当てると、目立たない場所を探して零はいつもの姿に戻る。

 彼は、今見ている光景に疑問を感じていた。

 なぜランコントルは、明るくなったり“暗くなったり”しているのかと。

 零やスズキは元々実体のない、思念だけが集まってできた生き物だ。

 食性の違いから、“天使”や“悪魔”と呼ばれ、彼らが気体としてただよっているとき、その場所の明るさ、暗さに影響をおよぼすことがあった。

 天使がいれば明るく、悪魔がいれば暗く。

 わかりやすいが、人間は気付かないことがほとんどだ。

 したがって、ここにスズキがいるなら、ランコントルは他の場所より明るく見えなければおかしい。

 こんなふうに明暗をいったりきたりしているのは、“天使”の存在自体が点滅しているのかもしれない。

 “天使”の寿命というのはこんなふうに、電球みたいに切れるのだろうか、と思いながら零は呼びかけた。

 「スズキ?」

 ごく細かい粒子の打ち上げ花火を逆再生して、光が零の前に集まる。

 それが消えると、そこにスズキが立っていた。

(続)

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