続き 3
金髪タテロールのツインテール、ミミちゃんこと宇佐美瑞希。
元々ここの客(?)だった零のほうは、彼女たちの顔を知っているし、頼みもしないのに普段から家で彼女たちの話をさんざん聞かされ、誰が誰かはじゅうぶん把握していた。
ミミは、さりげなく“零”をまんべんなくチェックして去って行った。
オーダーをとりにきたのは、日向寧々子、通称ネコ。
ショートカットの元気少女で、あまりの活発さに男の子とまちがわれたこともあるらしい。
こちらはストレートに話しかけてくる。
「はじめましてー!“零”さんですよね?
あたしネコって言うんですけど、よろしく。
で、零さんて、確かレイと一緒に住んでたんですよね?
え彼氏彼女でいーんですよね?」
ウエイトレスと客、という立場以外で今までネコと接したことのない零だったが、レイの話からネコがよくしゃべるとは知っていた。
それでも。
ハンパねえ・・・。
質問攻めに遭い、零の顔はひきつりかけていた。
ネコの質問はまだまだ続いていた。
「で、ぶっちゃけレイのことどんくらい好きですか?
デートとかってどこ連れてってるんですか?
てか何してるヒトなんですか?
あ、トシっていくつですか?
いつから付き合ってるんですか?
前にウチの店来てましたっけ?
あ そーいえばご注文なんでしたっけ?」
「エンパイアショコラと、モカで。」
多すぎる質問はスルーで、零は何とか笑顔を作り注文だけをすませた。
ネコのほうも言うだけ言うと満足して、オーダーを復唱すると去って行った。
ケーキとコーヒーを運んできたのは、亀田結花里、“ゆっくりカメちゃん”。
少し…だいぶぽっちゃりしているが、まとう雰囲気がとても優しく、ゆっくりした動作と話し方も、接する相手に癒しを与えてくれる。
零には効果もないが。
「おまたせいたしましたぁ」
品物を置いた後、丸い顔についた丸い目で、じっと零をみつめてくる。
零は、とりあえず微笑んだ。
「何か?」
問う彼に、カメちゃんは少しアタマを下げた。
「レイちゃん、よろしくお願いしますね。」
「…どうも。」
レイよりいくつか年下だと聞いていたが、まるで姉の態度だ。
改めて零は、我が主のしょーもなさを思った。
お高いランコントルの、さらにチョコレートの中で一番高いケーキをじっくり楽しむと、零はレシートを持ってレジの前に立った。
気付いてレジに入ったのは、御手洗 翔。
レイの幼馴染で彼女を追いかけてランコントルへ来た青年。
が、恋愛感情は無いようで、今のところ零も彼を何とも思っていない。
「2,050円です。」
普段キッチンで雑用をしている彼は、愛想笑いもなく言った。
“普通のヒト”らしく財布から出した金を置くと、零はメガネをはずした。
「翔くん?」
呼ばれて顔をあげた翔の目が、まともに零の視線にさらされる。
人間には理解できないチカラを含んだ、視線。
意識や記憶に細工をされれば、自我を保っている限り誰でも違和感を覚え、表情にわずかなりとも影響する。
つまり、一瞬フシギそうな顔になるのが普通だ。
それが、翔は違った。
眉をひそめ、不審者を見る目つきで零を見つめ返してきた。
零は慌てることなく、メガネのレンズに軽く息を吹きかけ、ホコリを払う仕草をしてみせる。
その上で、メガネをかけなおすと、敵意が無いことを示すために、笑った。
何か言いたそうな顔で、翔は黙ってレジのキーを打ち、清算する。
レイが言うところによると、この翔はオバケが見えるらしい。
つまり零たち、人外の持つ力を意識して感じ取ることができる。
以前そのせいで女の霊に憑かれた翔を、零は“なゆた”の姿で助けたこともあった。
もっと強い力で記憶を操作しても良かったが、思いなおした。
この翔は、あまり強引なタイプではないし、レイを姉(たびたび妹)のように慕っているから、おかしな男を紹介することもないだろう。
出てきたレシートを手渡されるときに、零は先手を打った。
「翔くんて、オバケ、見えるんですよね?」
相手は黙っている。
零は警戒に気付かないフリで続ける。
「俺、そういうの引き寄せやすいらしくて、時々取りつかれたりしちゃうんですよね。」
気弱そうに苦笑してみせると、相手は不機嫌な顔つきになる。
「もう、黙っててって言ってるのに、レイさんは。」
レイへの不満を口にした。
どうやら、零への不信感はぬぐえたようだった。
さらにうまくいけば、今までの不都合な事実はすべて、その辺でとりつかれたオバケのせいになるだろう。
「大丈夫、俺は誰にも言いません。でも、時々相談させてもらっても、いいですか?」
唇の前で人差し指を立ててから、なるべく人が良さそうに見える顔で、零は笑った。
うなずいて、翔も少し笑った。
零はついでに、翔にも“良い彼氏”をアピールしておくことにした。
「レイ、そろそろ上がりですよね。もう来るかな?」
「そうですね、裏口に回ってもらえば会えると思いますよ。」
ありがとう、と笑い零はランコントル従業員用通用口へ向かった。
(続)




