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居候日記  作者: narrow
55/95

続き 3

 金髪タテロールのツインテール、ミミちゃんこと宇佐美瑞希。

 元々ここの客(?)だった零のほうは、彼女たちの顔を知っているし、頼みもしないのに普段から家で彼女たちの話をさんざん聞かされ、誰が誰かはじゅうぶん把握していた。

 ミミは、さりげなく“零”をまんべんなくチェックして去って行った。

 オーダーをとりにきたのは、日向寧々子、通称ネコ。

 ショートカットの元気少女で、あまりの活発さに男の子とまちがわれたこともあるらしい。

 こちらはストレートに話しかけてくる。

 「はじめましてー!“零”さんですよね?

 あたしネコって言うんですけど、よろしく。

 で、零さんて、確かレイと一緒に住んでたんですよね?

 え彼氏彼女でいーんですよね?」

 ウエイトレスと客、という立場以外で今までネコと接したことのない零だったが、レイの話からネコがよくしゃべるとは知っていた。

 それでも。

 ハンパねえ・・・。

 質問攻めに遭い、零の顔はひきつりかけていた。

 ネコの質問はまだまだ続いていた。

 「で、ぶっちゃけレイのことどんくらい好きですか?

 デートとかってどこ連れてってるんですか?

 てか何してるヒトなんですか?

 あ、トシっていくつですか?

 いつから付き合ってるんですか?

 前にウチの店来てましたっけ?

 あ そーいえばご注文なんでしたっけ?」

 「エンパイアショコラと、モカで。」

 多すぎる質問はスルーで、零は何とか笑顔を作り注文だけをすませた。

 ネコのほうも言うだけ言うと満足して、オーダーを復唱すると去って行った。

 ケーキとコーヒーを運んできたのは、亀田結花里、“ゆっくりカメちゃん”。

 少し…だいぶぽっちゃりしているが、まとう雰囲気がとても優しく、ゆっくりした動作と話し方も、接する相手に癒しを与えてくれる。

 零には効果もないが。

 「おまたせいたしましたぁ」

 品物を置いた後、丸い顔についた丸い目で、じっと零をみつめてくる。

 零は、とりあえず微笑んだ。

 「何か?」

 問う彼に、カメちゃんは少しアタマを下げた。

 「レイちゃん、よろしくお願いしますね。」

 「…どうも。」

 レイよりいくつか年下だと聞いていたが、まるで姉の態度だ。

 改めて零は、我が主のしょーもなさを思った。

 お高いランコントルの、さらにチョコレートの中で一番高いケーキをじっくり楽しむと、零はレシートを持ってレジの前に立った。

 気付いてレジに入ったのは、御手洗 翔。

 レイの幼馴染で彼女を追いかけてランコントルへ来た青年。

 が、恋愛感情は無いようで、今のところ零も彼を何とも思っていない。

 「2,050円です。」

 普段キッチンで雑用をしている彼は、愛想笑いもなく言った。

 “普通のヒト”らしく財布から出した金を置くと、零はメガネをはずした。

 「翔くん?」

 呼ばれて顔をあげた翔の目が、まともに零の視線にさらされる。

 人間には理解できないチカラを含んだ、視線。

 意識や記憶に細工をされれば、自我を保っている限り誰でも違和感を覚え、表情にわずかなりとも影響する。

 つまり、一瞬フシギそうな顔になるのが普通だ。

 それが、翔は違った。

 眉をひそめ、不審者を見る目つきで零を見つめ返してきた。

 零は慌てることなく、メガネのレンズに軽く息を吹きかけ、ホコリを払う仕草をしてみせる。

 その上で、メガネをかけなおすと、敵意が無いことを示すために、笑った。

 何か言いたそうな顔で、翔は黙ってレジのキーを打ち、清算する。

 レイが言うところによると、この翔はオバケが見えるらしい。

 つまり零たち、人外の持つ力を意識して感じ取ることができる。

 以前そのせいで女の霊に憑かれた翔を、零は“なゆた”の姿で助けたこともあった。

 もっと強い力で記憶を操作しても良かったが、思いなおした。

 この翔は、あまり強引なタイプではないし、レイを姉(たびたび妹)のように慕っているから、おかしな男を紹介することもないだろう。

 出てきたレシートを手渡されるときに、零は先手を打った。

 「翔くんて、オバケ、見えるんですよね?」

 相手は黙っている。

 零は警戒に気付かないフリで続ける。

 「俺、そういうの引き寄せやすいらしくて、時々取りつかれたりしちゃうんですよね。」

 気弱そうに苦笑してみせると、相手は不機嫌な顔つきになる。

 「もう、黙っててって言ってるのに、レイさんは。」

 レイへの不満を口にした。

 どうやら、零への不信感はぬぐえたようだった。

 さらにうまくいけば、今までの不都合な事実はすべて、その辺でとりつかれたオバケのせいになるだろう。 

 「大丈夫、俺は誰にも言いません。でも、時々相談させてもらっても、いいですか?」

 唇の前で人差し指を立ててから、なるべく人が良さそうに見える顔で、零は笑った。

 うなずいて、翔も少し笑った。

 零はついでに、翔にも“良い彼氏”をアピールしておくことにした。

 「レイ、そろそろ上がりですよね。もう来るかな?」

 「そうですね、裏口に回ってもらえば会えると思いますよ。」

 ありがとう、と笑い零はランコントル従業員用通用口へ向かった。

(続)

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