続き
◆
「風邪じゃねえかバカ。」
夜になって咳をしだしたレイに、零は冷たく吐き捨てた。
「はなみじゅ、でた。れぇさん、ティッシュ。」
箱ごと渡そうとした零の手が、レイの手に触った。
零が、小さくつぶやく。
「ん?」
白い手がレイの頬に伸びる。
「…熱でてるじゃねえかバカ。」
「ふぇ、何か、そーやっていわれたらぁ、ボーッと…」
「寝ろバカ。」
「でも、おふろ…」
「許さん。気になるなら拭いておけ。」
有無を言わせぬ零が、パウダー入りでせっけんの香りのサラサラボディ、というキャッチフレーズのついた箱をレイの前に置く。
熱で脳がゆだってしまったと見えて、レイは小さくうめきながらその場で服を脱ぎ始めた。
パンツを残して全部脱ぎ散らかし、カラダを拭いていたのだが、零は特に何も言わず、ただ彼女の脱いだ服を淡々と片付けた。
翌日その(見られちゃった)ことを思い出したレイは、深く落ち込んだ。
が、わりと一瞬で忘れた。
幸いすぐに食欲も戻り、あっという間に彼女は回復してしまった。
◆
それから、二日ほど後の朝。
零が寝坊した。
うっすら朱の差す頬が可愛らしくて、レイは隣の寝顔をそっとつつく。
「んん」
眉を寄せて、小さな声を出す零。
なんかおかしいな、とレイは思う。
もう一回、つんつん。
「う ざ…」
ウザい、らしい。
レイは少し笑って、気づく。
声がおかしい。
おまけに、頬が朱いのも零にはありえない。
どんなに怒っても、真夏の炎天下に何時間さらされても、彼の顔色はいつも青白かった。
その朱い頬に、触れる。
熱い。
「うそ、熱?!」
その声に零が目を覚ます。
「るせぇ…何だ?」
ゆっくりカラダを起こした彼を、レイが押し倒す。
「ダメ!寝てて!」
零は驚きのあまり、無抵抗に寝かされたままつぶやく。
「・・・は?」
「ごめんね零さん、カゼうつっちゃったみたい・・・」
眉尻を下げ、困りきった顔でレイが謝った。
「…カゼ?俺がカゼなんか」
言いかけて、零本人も自分の声の変化に気付く。
・・・っくしゅ。
たぶん、彼にとって生まれて初めての、くしゃみ。
「ほらあ、零さんハナミズたれてきたよ?」
信じられない、といった顔でぽかんとしている零のハナを、レイはパパッとティッシュで拭いた。
「はい、くしゅくしゅ、チーンて。」
どうも耳に入ってないようで、彼は微動だにしなかった。
(続)




