続き 4
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「あたしとしてはぁ、お兄ちゃんと零さん、仲良くしてほしいんですけどねー、あ、このお皿さげちゃいますね。」
レイの仕事場は、アルバイトとして働くケーキ店”Rencontre”だ。
親しげに話しかけている相手の客は、長い金髪をした、外人と見える青年。
「でも、零くんベタベタされるのキライそうだしねえ、難しいんじゃない?」
ふにゃふにゃとした話し方ながら、スラスラ流れる言葉遣いだけを聞くと日本人としか思えない。
「スズキさんも、そう思いますぅ?」
「残念だけど。まあ、とりあえずは彼の不満がバクハツしないよう、お兄さんが来たあとはゴキゲンとってあげるとかしたほうがいいんじゃない?会わせないようにするのが、一番だとは思うけどねー。」
スズキと呼ばれた、どう見ても外人ふうの彼は、やはりふにゃっとしたしゃべり方で答える。
「うーん、ゴキゲンっていってもぉ、甘いものも毎回きくワケじゃないしなあ。」
「食べたくないわけじゃないだろうけど、零くん、基本的に人間キライだから“人間らしく”なっちゃうのがイヤなんでしょ。あ、でもホメてあげるのとか地味にキくんじゃない?いっがーいと調子乗りなんだよね、彼。」
零がどんな姿であっても彼を認識できる、古い知り合いとは、この男だった。
レイよりは零に詳しい彼は、かといって決して多くはない零情報を駆使してレイにアドバイスをする。
二人にうまくいってほしい、というのが彼、スズキのスタンスだ。
「ぁ、たぁしかにぃ。・・・てか、もちょっと作戦会議したいなぁ、なんて。」
そんな彼を第二の兄のように頼るレイは、ついついオネガイする声になってしまう。
「あはは、まあ、ここじゃ話すっていってもきみ仕事中だもんね。なら、後で僕のバイト先のほうくる?夕方にはあがっちゃうでしょ?」
王子様のようにさわやかなスズキの微笑みは、レイ以外の多くの女性を魅了した。
「え、仕事場じゃ、あたしジャマですよね?」
あくまで、レイ以外だ。
「あ、ヘーキヘーキ。ぜんぜん気にしないよ、みんな優しいから。」
優しかろうがそうであるまいが、全然まわりを気にしないのはスズキのほうで、責任感ある仕事仲間にとっては本当に迷惑だったが、レイにそれがわかるわけもなかった。
「じゃ、お邪魔しちゃいますね!」
「おっけ」
笑顔をかわして、作戦会議の約束が成立した。
「じゃ、あとで。」
「はぁい!」
数時間後に会うことにして、二人は別れた。
(続)