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居候日記  作者: narrow
49/95

9 もっと

 「もー、甘いモノばっかり食べて、ちっともゴハン食べないんだから!」

 とか何とか言いながら、自分の部屋でレイはケーキをぱくついている。

 自分の働くランコントルから、お買い上げでテイクアウトだ。

 店長はタダでいいと言うのだが、レイはちょくちょく買うのにそれじゃ悪いと言い、結局半額ということになっていた。

 その、半額ケーキをレイの向かい側で食しているのは、もちろん零。

 したがって、このお説教をうけているのも零だ。

 彼も黙ってはいない。

 「オトナぶったこと言ってるつもりかも知れないが、お前の考えくらいわかってる。一緒にメシ食ってるってシチュエーションが欲しいだけだろ?」

 オヤツを食べている普通の子供にしか見えない零から、こちらを馬鹿にした回答が返ってくる。

 普通に、くやしい。

 「自分だってー!オトナぶってるけどケーキ大好きじゃんっチョコとかイチゴとかー!」

 言い返すと、零は余裕で微笑んだ。

 「好き…だったら悪いのか?」

 確かに、オトナだって甘い物がスキだったりはする。

 零の表情は、まったく子供らしくない。

 レイは自分の方が、間違っている気がしてきた。

 「悪く、ないけど・・・。」

 くくく、と零が低く笑う。

 むしろ、一緒に食事をしたい、と言っても理由が“寂しいから”というレイのほうが子供じみている。

 毎日一緒に食事ができればいい、とレイは思い、まるで夫婦のようなその状況に憧れた。

 なのに、不意に浮かぶ疑問。

 夫婦、伴侶、ずっと一緒にいる相手。

 彼は、自分を選ぶだろうか?

 これから先もずっと、一緒にいていつか自分を好きになって欲しい。

 それは、彼女の願望だけで、肝心の相手の気持ちは今ひとつ、つかめない。

 一応、ちょっとばかりの関心はあるらしいのだが、確かめようとすると返ってくる反応は微妙だ。

 好き、ってなんかこんなんじゃないよね、とレイは思う。

 今の状態に一番ハマる表現は、

    嫌いじゃない。

 それでも、だいぶ進歩した。

 ねぇ、好き?

 なんて訊けない。

 良くても愛想笑い(その気になると零はそれがとても上手い、が素の彼を知るものにはそれが不気味に映る)、悪ければ…嫌われることもありうる。

 うっとうしい、と。

 二口、三口食べて、まだ半分以上残るケーキを前にレイは食欲がなくなるのを感じた。

 「ねぇ、零さん。」

 返事の代わりに、淀んだ空に似た瞳がこちらを見る。

 表情はなくとも、目を合わせてくれたこと、いつもより かげりの少ない瞳、言ってしまえば雰囲気で、若干機嫌が良いのがわかる。

 だから、少し距離をつめてみる。

 レイは食べかけのケーキを一口分フォークで取り分けた。

 「あーん。」

 ヤなカオされたら、ジョーダンて言っちゃえばいいんだもん。

 ほんの一瞬、レイにはそれが少し長く感じる。

 間を置いてから、零はそれに食いついた。

 ぱくん、と子供のように。

 すっかりそれを飲み下してから彼は、たまには子供扱いされてやる、と無表情のまま言った。

(続)

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