9 もっと
「もー、甘いモノばっかり食べて、ちっともゴハン食べないんだから!」
とか何とか言いながら、自分の部屋でレイはケーキをぱくついている。
自分の働くランコントルから、お買い上げでテイクアウトだ。
店長はタダでいいと言うのだが、レイはちょくちょく買うのにそれじゃ悪いと言い、結局半額ということになっていた。
その、半額ケーキをレイの向かい側で食しているのは、もちろん零。
したがって、このお説教をうけているのも零だ。
彼も黙ってはいない。
「オトナぶったこと言ってるつもりかも知れないが、お前の考えくらいわかってる。一緒にメシ食ってるってシチュエーションが欲しいだけだろ?」
オヤツを食べている普通の子供にしか見えない零から、こちらを馬鹿にした回答が返ってくる。
普通に、くやしい。
「自分だってー!オトナぶってるけどケーキ大好きじゃんっチョコとかイチゴとかー!」
言い返すと、零は余裕で微笑んだ。
「好き…だったら悪いのか?」
確かに、オトナだって甘い物がスキだったりはする。
零の表情は、まったく子供らしくない。
レイは自分の方が、間違っている気がしてきた。
「悪く、ないけど・・・。」
くくく、と零が低く笑う。
むしろ、一緒に食事をしたい、と言っても理由が“寂しいから”というレイのほうが子供じみている。
毎日一緒に食事ができればいい、とレイは思い、まるで夫婦のようなその状況に憧れた。
なのに、不意に浮かぶ疑問。
夫婦、伴侶、ずっと一緒にいる相手。
彼は、自分を選ぶだろうか?
これから先もずっと、一緒にいていつか自分を好きになって欲しい。
それは、彼女の願望だけで、肝心の相手の気持ちは今ひとつ、つかめない。
一応、ちょっとばかりの関心はあるらしいのだが、確かめようとすると返ってくる反応は微妙だ。
好き、ってなんかこんなんじゃないよね、とレイは思う。
今の状態に一番ハマる表現は、
嫌いじゃない。
それでも、だいぶ進歩した。
ねぇ、好き?
なんて訊けない。
良くても愛想笑い(その気になると零はそれがとても上手い、が素の彼を知るものにはそれが不気味に映る)、悪ければ…嫌われることもありうる。
うっとうしい、と。
二口、三口食べて、まだ半分以上残るケーキを前にレイは食欲がなくなるのを感じた。
「ねぇ、零さん。」
返事の代わりに、淀んだ空に似た瞳がこちらを見る。
表情はなくとも、目を合わせてくれたこと、いつもより かげりの少ない瞳、言ってしまえば雰囲気で、若干機嫌が良いのがわかる。
だから、少し距離をつめてみる。
レイは食べかけのケーキを一口分フォークで取り分けた。
「あーん。」
ヤなカオされたら、ジョーダンて言っちゃえばいいんだもん。
ほんの一瞬、レイにはそれが少し長く感じる。
間を置いてから、零はそれに食いついた。
ぱくん、と子供のように。
すっかりそれを飲み下してから彼は、たまには子供扱いされてやる、と無表情のまま言った。
(続)