続き 2
話が学校のことに及んだとき、ミッチーは急に黙り込んだ。
数秒そのままでいると、ユゥちゃんが彼の顔をのぞきこんだ。
「どしたの、ミッチー?」
「忘れ物、しちゃったんだ。」
それがどうしたのか、と零もユゥちゃんも黙っている。
「宿題のノート、もって帰らないと宿題できないんだった!ヤバい。」
「明日誰かのうつせば?」
ユゥちゃんが言うと、ミッチーは首を振った。
「間に合わないよ、今日のやつメッチャいっぱいあるんだ!」
「ママにおこられる?」
ユゥちゃんがきくと、ミッチーはうなずく。
「別に、死ぬわけじゃないだろ。」
零はつまらなそうに言ったが、ミッチーはさらに暗い顔になった。
「でもヤだよねえ、ねー?」
ユゥちゃんはミッチーの味方らしい。
「じゃ、取りに行けばいい。」
零が言うと、ミッチーはおびえた。
「入れる、けど、けどダメだよ!4時おばけが出るかもしれないから・・・」
「あー、あれ?ミッチー信じてるの?」
なんでもなさそうに、ユゥちゃん。
「なんだ、4時おばけって。」
零だけが、それを知らなかった。
「4時44分にー、学校でオバケが出るんだってぇ。」
言って、怖がるミッチーがおかしいのか、ユゥちゃんは笑った。
おびえるミッチーに、零はこともなげに言う。
「24時間制で言えば、夕方4時は16時だ。心配しなくていいんじゃないか?取りに行けよ。」
誰か(ほぼミッチー)をイジめるわけではないただの子供の遊びに、彼はもう飽きてきていて、これを口実に解散したかった。
とはいえ、この零の考えには何の保証もない。
よってミッチーの不安もおさまることなく、彼はさらに迷い続けた。
「えー、でも大丈夫かなー、おばけ出たらどうしよう、やっぱやめようかな。」
取りにいくことを考えるとさらに怖くなってしまったらしく、ミッチーは激しく独り言をいい始めた。
零は、くっくと笑い、ユゥちゃんは悩むミッチーに一喝した。
「もー、ミッチーかっこ悪い!」
そこへ零が口をはさんだ。
「んなこたない。一人で行けるよな、ミッチー?」
零の微笑には一点の曇りもなく、ミッチーはさらに拒むことができない。
「幸い、暗くなるのはまだまだ先だ。今日はここで別れることにして、お前は忘れ物をとりに行け。」
自然にその場を仕切る零に、ミッチーは流される。
「うん・・・わかった。」
渋々了解したが、ユゥちゃんには通用しなかった。
「えぇえー?もうバイバイすんのぉ?ユゥちゃんもっと遊びたぁい。」
零の方も、そのくらいは読みきっていて、イラつく事も無く対応する。
「送ってってやるから、ほら行くぞ。」
歩き出すとユゥちゃんは、待ってよぅ、と言いながらついてきた。
あとから、ユゥちゃんは一瞬だけふりむいて、
「ばいばい、ミッチー。」
と手を振り、少し元気のない彼に、ガンバレー、と無責任な応援を投げかけた。
弱々しい笑顔でミッチーがそれに応えると、今度は零が振り向き、じゃあな、と言った。
その後、唇の動きだけでこう付け足した。
“あとで”
それはうまく伝わったようで、ミッチーはほっとした笑顔を浮かべ、元気に零たちに手を振ってきた。
彼らが見えなくなるまで。
その後、零はユゥちゃんとの何気ない会話の中から、学校の場所を聞き出しつつ、彼女を家のドアの前まで送った。
明日の誘いを蹴ってユゥちゃんをドアの向こうへ押し込む。
それから人気のない通りへ入ると、完全に誰も見ていないタイミングを見計らい、姿をほどいた。
霧状になって高速移動を開始する。
4時44分に、間に合うように。
(続)