続き
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別に零は、男友達が欲しいわけではなかった。
そもそも本物の子供ではないのだから、子供の友達をほしがるわけはない。
その彼がなぜ、ミッチーの存在を許したかというと。
「もー、なんでだよ!さっきからぼくばっかり鬼じゃん!」
鬼ごっこをすれば、ミッチーは零に追いつけず、ユゥちゃんをつかまえればわざと零がすぐ次の鬼になり、あっという間にミッチーをつかまえる。
かくれんぼでは、どこかをさがす間に零とユゥちゃんは二人して隠れる場所を次々かえてしまい、みつからない。
三人で遊んでいるのに、ミッチーはいつもひとり。
それが、零には面白かった。
ユゥちゃんの気を引きたがっているミッチーは、最初から零にとっていいオモチャにしか見えていなかった。
あからさまなイジメに、しばらくすると当人も気付く。
「なんか、ぼくばっかりソンしてる。」
不満と寂しさの混じった顔で、ミッチーはスネ始めた。
「そんなことないだろ、じゃあ、違う遊びをしよう。」
零は、全く悪気のない表情で言った。
ユゥちゃんと仲良くする零に対して、ミッチーが発する嫉妬は美味しかったし、せっかく手に入れたオモチャをすぐに手放す気はない。
当然、零を好きなユゥちゃんは賛成。
「ユゥちゃん、何でもいいよー。」
ミッチーのほうは疑っている。
「たとえば?」
零は、少しイジワルそうに笑うと言った。
「お医者さんごっこ。」
「やる。」
ミッチーは即答していた。
ただし俺の考えたやつだ、と零が説明したその遊びは、罰ゲームの連鎖だった。
まず一人、患者役をジャンケンで決める。
他の二人は医者役として、ランダムに混ぜたジュースやお菓子で、クスリをいくつか作る。
ほとんどの場合、味はスゴイものになり、食感も食べ物からは遠ざかる。
テキトーな病名で患者がきて、クスリを処方。
ここで飲みきればクリアで、またじゃんけんから始まる。
飲みきれなかった場合、患者はオペと称して二人からつねられる。
患者が10秒耐え切ると医療ミスとなり、残った薬を医者役が飲む、というもの。
なぜか、零はジャンケンに負けることがなかった。
「なゆスゴーイ!」
ユゥちゃんは感心し、ミッチーはズルいよー、とゴネながらもルールに従った。
仕掛けはカンタン、零は心が読めるのだ。
一度だけ、ギリギリまで迷って出す手を変えたミッチーに負けてしまったが、それでも零は顔色ひとつ変えず“薬”を飲み下してから、とってつけたように
「まずい。」
と言った。
とってつけたセリフなのだから、そう聞こえて当然だ。
“悪魔”の彼は、身体の感覚を(意識すれば)殺すことができた。
舌と鼻をオフにすると、飲み込む違和感さえガマンすればだいぶ楽だ。
ノドもオフにしてしまえばもっと楽に思えるが、そうするとうまく飲み込むのが難しくなってしまうので、多少の不快感は仕方ない。
零が負けたことで、不信感が晴れたミッチーは“薬”を見事クリアした彼に賞賛を送った。
「なゆ、コンジョーあるぅ!」
さて、しばらくしてこのお医者さんごっこは、(ひそかに二人の苦しむさまを楽しんでいた零以外)誰も得をしないことに気付いたミッチーの提案により止める提案がされ、それは容れられた。
薬のダメージは、ユゥちゃんをもむしばんでいた。
その後は、ブランコにのってみたり、ミッチーの聞いて来たウワサ話に、これも付き合いだと零も乗ってやったりして、さらに時間は過ぎていった。
(続)