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居候日記  作者: narrow
40/95

続き 5

    ◆

 レイちゃん、今日も一日、おつかれさま。

 明日も、キミの騎士がずっと見守ってるよ。

 アパートの入り口に消えていくレイを、物陰から見つめながら彼は思った。

 「・・・ふ、ぅふ、うふ。」

 薄青いひげの剃り跡に囲まれた唇の間から、荒い息に似た笑いが漏れる。

 本当は一日中彼女を“見守る”ために、盗聴器や小型カメラを用意したいところだが、昼は彼女についていなくてはならないし、夜はその日写真におさめた彼女の写真をアルバムに整理して、じっくり鑑賞しなくてはならない。

 彼は、忙しいのだ。

 それに、取り付ける所を誰かに見られたら、これから彼女を守ってあげることが難しくなるかもしれない。

 臆病なのではない、慎重なだけだ。

 こんなにも思慮深く、慎重で、彼女のために身を粉にして護衛を続ける自分は、まさしく生まれ変わる前、騎士だったに違いない。

 彼は思う。

 そして、自分と運命で結ばれた彼女はきっとお姫様だったのだ。

 一介の騎士と王女の恋は周りから反対され、二人は・・・。

 でも大丈夫、今の二人にはなんの障害もないんだよ、レイちゃん。

 興奮に息を荒くすると、彼女の部屋に電気がつくのを確かめてから、彼は薄闇の中を家路についた。

 両親は昼の間、彼がどこへ行っているのか知らない。

 ただいまも言わず帰ってきた彼に、家にいた母親が声をかける。

 「毎日遊んでないで、仕事探しなさいね、修ちゃん。」

 おれの仕事はレイちゃんを守ることなんだよ、クソババア。

 修ちゃんなんて呼ぶなよな、大人なんだからよ。

 さぁ、部屋でゆっくり今日とりたての、新しい写真を見よう。

 二階に上がると、おれは後ろ手でドアを閉めた。

 そのとたん急に、寒気と言うか、怖気おぞけがした。

 「選ばせてやる。Dead…or die?」

 おれの声ではない。

 父親の声でもない。

 低い声の中に、押し殺した怒りがにじんでいる気がした。

 いや、そんな事よりもおれとドアの間にはヒトが入れるスキマはない。

 なのになぜ、この声は後ろから聞こえるんだ?

 「…は、…ひは、あう・・・」

 なぜ、なぜ、なぜ。

 誰・・・いや、ナニが居るんだ?

 なぜ、誰もいないハズの部屋に?

 いつから、どうやって?

 言いたいことは沢山あるのに、混乱と驚きと恐怖が入り混じり、言葉にならなかった。

 うしろの何かが笑った。

 「くっくっく…いや、悪かった。これじゃ選び辛いな。言い方を変えよう。俺と契約するか、しないか。契約すれば、死後その魂を貰う代わり、楽に死なせてやる。何も感じず、ただ、心臓が止まる。怖く…ないぞ?くくくっ。」

 怖かった。

 ナニが怖くないって?

 おれは、ナニが何だかわからない。

 楽しそうに笑っているコイツは、死神か?

 契約…悪魔?

 死の、契約。

 「いや、だ…いやだー!」

 「そうかぁ、俺は、選ばせてやったのに、なぁぁぁあ!」

 徐々に大きくなる後ろの声は、恐怖を限界まであおり、俺は、声を・・・。

 「あ゛おっ、がぇあっがぁっ!」

 何かごつごつした物が、素早く口に押し込まれた。

 ノドにまで入り込もうとするソレは、後ろから伸びた手だ。

 おれは激しくむせて、こみあげる胃液を手ごと吐き戻そうとカラダを震わせる。

 暴れても、口の中に入った手が、がっちり頭を固定していて逃れることができない。

 口から、だらだらとよだれが垂れ、苦しさに涙がにじんだ。

 両手ではずそうとしても、手はビクともしない。

 口いっぱいに入っているソレは、甲の部分が収まりきらず、すぐ目の前で青白くスジを浮かせている。

 苦しい、キモチが悪い。

 噛み付けば放すかもしれないと思ったが、限界まで無理やり押し広げられたアゴにはチカラが入らず、そんなことは不可能だった。

 そして、そんな抵抗を考えた瞬間、さらに手は奥までねじ込まれ、骨ばった固い指先がノドの奥深くまで侵入し、うごめく。

 さっきまでとは比べ物にならない、苦痛と吐き気が突き上げた。

 ノドがケイレンし、体が勝手にびくんびくんと跳ねた。

 「くるしい〜ぃ?」

 ねばりつく不気味な声が、からかう調子で言った。

(続)

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