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居候日記  作者: narrow
39/95

続き 4

 「のぃる!のぃひゃうっ!」

 のびちゃう、といいたいらしい。

 「伸びちまえ!どーせすぐ戻るんだろうが!」

 人間の体とは違うのだし。

 零としては、伸びたままになる呪いでもかけてやりたいところだ。

 「いーやーらっ!」

 引っ張る零の手と、それをほどこうとして掴むスズキの手の力が拮抗する。

 ぷるぷる震える二人の手。

 勝負はつかず、したがってスズキの頬は引っ張られたままだ。

 「もぉっ、あにっ(何)しに、来たんらよぉ!」

 痛みの中からスズキが声を絞り出すと、零は不機嫌に目を細め手を放した。

 「・・・この役立たずが。」

 「え?」

 スズキには、なんの事かわからない。

 「レイにストーカーがついてる。」

 零の声は落ち着いていて、表情もないが、怒っているのは間違いない。

 「で?」

 スズキは首をかしげた。

 零はそのしぐさに苛立ち、表情と声を変える。

 「で、じゃねえ。お前、何しにランコントルに行ってる?お前がいながら、何でレイにあんなのが近づくんだ?ぁ?」

 詰め寄る零に、スズキは平然と言った。

 「甘えるな。」

 冷たい表情は、珍しい。

 その珍しい表情のまま、スズキは言葉を続けた。

 「もちろん、あのコに何かあった時は助けるつもりでいるけど、本来それは君の仕事だろ。ここに文句言いに来たってことは、彼女に何かあったらヤなんだよね?僕にイヤミ言いに来ただけなら、君はもっと楽しそうにしてるハズだし。・・・だから、気づいたなら君が何とかしろよ。」

 何か言葉を飲み込んだ気配が気にかかったが、言われてみればその通りだ。

 放っておけば、何かが起こりそうなときにはスズキが対処したのかもしれない。

 ストーカーの考えは、さっき読んだとおりだ。

 “何か”起こすまでには、まだ間がある。

 焦って動いたのは、気になっていたのは自分だ。

 まだそこまでキケンではない、何も起こりそうもないからスズキは動かない。

 それが気に入らないなら、自分が動けばいい。

 だが、スズキはレイを好きなハズで、ならば危険は可能性だけであってもつみとるべきではないのか?

 「あいつの事が、心配じゃないのか?」

 もうほとんど、結論は出ていた。

 スズキは揺るがないだろうと思ったが、素直に引き下がろうとも思えず、零は問う。

 青い空と、森が溶け合う瞳。

 自分の知らない記憶がそこにある気がして、零はかすかなめまいを覚える。

 まっすぐに零の目を見たまま、ただ静かに、ゆっくりと彼は

 「・・・そうだね。」

 と言った。

 何かを、伝えようとしている。

 そんな気がするだけ、なのかもしれない。

 心当たりはない。

 何が言いたい?

 問うて答えるものなら、最初から口に出すだろう。

 何か知っている、それを隠している。

 気のせい、だろうか。

 ほんの数秒考えると、舌打ちを残して零は店を出た。

 ドアが開いた瞬間、人間に見えていた姿が蒸発する。

 高速移動する気体に、スズキのつぶやきは追いつかなかった。

 「ふふ…やっぱり16、7がいいトコだ。」

 安心した、その笑みも。

(続)

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