続き 4
「のぃる!のぃひゃうっ!」
のびちゃう、といいたいらしい。
「伸びちまえ!どーせすぐ戻るんだろうが!」
人間の体とは違うのだし。
零としては、伸びたままになる呪いでもかけてやりたいところだ。
「いーやーらっ!」
引っ張る零の手と、それをほどこうとして掴むスズキの手の力が拮抗する。
ぷるぷる震える二人の手。
勝負はつかず、したがってスズキの頬は引っ張られたままだ。
「もぉっ、あにっ(何)しに、来たんらよぉ!」
痛みの中からスズキが声を絞り出すと、零は不機嫌に目を細め手を放した。
「・・・この役立たずが。」
「え?」
スズキには、なんの事かわからない。
「レイにストーカーがついてる。」
零の声は落ち着いていて、表情もないが、怒っているのは間違いない。
「で?」
スズキは首をかしげた。
零はそのしぐさに苛立ち、表情と声を変える。
「で、じゃねえ。お前、何しにランコントルに行ってる?お前がいながら、何でレイにあんなのが近づくんだ?ぁ?」
詰め寄る零に、スズキは平然と言った。
「甘えるな。」
冷たい表情は、珍しい。
その珍しい表情のまま、スズキは言葉を続けた。
「もちろん、あのコに何かあった時は助けるつもりでいるけど、本来それは君の仕事だろ。ここに文句言いに来たってことは、彼女に何かあったらヤなんだよね?僕にイヤミ言いに来ただけなら、君はもっと楽しそうにしてるハズだし。・・・だから、気づいたなら君が何とかしろよ。」
何か言葉を飲み込んだ気配が気にかかったが、言われてみればその通りだ。
放っておけば、何かが起こりそうなときにはスズキが対処したのかもしれない。
ストーカーの考えは、さっき読んだとおりだ。
“何か”起こすまでには、まだ間がある。
焦って動いたのは、気になっていたのは自分だ。
まだそこまでキケンではない、何も起こりそうもないからスズキは動かない。
それが気に入らないなら、自分が動けばいい。
だが、スズキはレイを好きなハズで、ならば危険は可能性だけであってもつみとるべきではないのか?
「あいつの事が、心配じゃないのか?」
もうほとんど、結論は出ていた。
スズキは揺るがないだろうと思ったが、素直に引き下がろうとも思えず、零は問う。
青い空と、森が溶け合う瞳。
自分の知らない記憶がそこにある気がして、零はかすかなめまいを覚える。
まっすぐに零の目を見たまま、ただ静かに、ゆっくりと彼は
「・・・そうだね。」
と言った。
何かを、伝えようとしている。
そんな気がするだけ、なのかもしれない。
心当たりはない。
何が言いたい?
問うて答えるものなら、最初から口に出すだろう。
何か知っている、それを隠している。
気のせい、だろうか。
ほんの数秒考えると、舌打ちを残して零は店を出た。
ドアが開いた瞬間、人間に見えていた姿が蒸発する。
高速移動する気体に、スズキのつぶやきは追いつかなかった。
「ふふ…やっぱり16、7がいいトコだ。」
安心した、その笑みも。
(続)