続き 2
その日によって、“目”は醜い“唇”になったり、ぶよぶよした“手”になったりもした。
しだいに、見える部分は広がっていき、さらに数日もすると、全身ねばねばにおおわれたレイにおぶさる形で抱きつく男の半身が見えるようになった。
細くはれぼったい目をした、色白でいかにも暗そうな肥満体の男。
べたべたした髪を伸ばしているが、頭自体は薄くなってきている。
レイの耳元でうごめく唇は、何かをささやきかけているのか、そこに舌を這わせたいのか。
レイの身になればおぞましい、零の目から見れば見慣れた人間の姿だった。
ただ、こうなってもまだ何も気付いていないレイは、いつもと変わらず、元気そうにしている。
ふつうは、ここまでくればその邪念のせいで原因のわからないイライラや、ゆううつに襲われたり、あるはずのない重みで肩がこったりと、それなりに影響を感じているはずだ。
それが、レイときたら、
「なんともないよー?」
である。
「そうか、それは良かったな。」
言いながら零は内心、死ななきゃわからないだろうな、と呆れていた。
それどころか、その徹底した無神経ぶりに感心さえした。
レイに抱きついている男は、まだ消えない。
だんだん、消えにくくなっていた。
妄想の中で、レイを自分の彼女だとでも思っているのだろう。
しつこさは、自己主張だ。
生意気に、人間の分際で俺に自己主張か。
そう思うとカッとなり、零は視線にチカラをこめた。
目つきはかわらないまま、その威力だけが増す。
「あつっ?なんか、ちくちくする。・・・なんだろ?」
すぐそばのレイにもいくらか影響したらしく、カラダをさすっている。
男は、消えた。
レイにしつこく、汚らわしい想いをよせる男。
レイを自分のものにしたがるその存在は、邪魔だ。
守るわけじゃない。
邪魔だから、いなくなってもらうだけだ。
レイには、何もいわない。
言えばただ、面倒が増える。
こうなったことも、だれにでも平等にふりまかれる彼女の優しさが原因だろうが、それでも零は彼女に対して忠告しようとすら思わなかった。
このバカには、どうせ言ってもわからない。
(続)