7 俺の
ダイスキなのに
だから大嫌いなときもある
スキだったり キライだったり
キモチは 揺れ動く
ブランコみたいに
いっぱい揺れて 揺れて
たのしい、ね?
◆
「零さんて、猫っぽいね。」
自分を見ているようで、そうでない零の視線に気づき、レイが言った。
話しかけて初めて、目が合う。
「ワガママできまぐれ、か?」
「それもあるけどー、今なに見てたの?」
「ナチュラルに無礼だな。お前に見えないモノだ。」
言い返すものの、零はむっとするでもなく、何の表情も浮かべていない。
レイはレイで、なにが“無礼”なのか気づいておらず、本人的にはただ思ったことを言っただけなので何も気にせず話を続ける。
彼女は基本的にとても優しいのだが、同時にとても頭が悪く、神経もあまり細かくない。
と、いうより無神経だ。
「ほらー、そういうトコ。猫もそうでしょ?何もないとこ見てて、夜とか怖いの。」
怖いというわりに、なにが面白いのか顔は笑っている。
そのハナシを、零は現実的な解釈で一蹴した。
「あれは、見えないくらい小さなホコリや、虫なんかを目で追ってるにすぎん。たいていは、な。」
「え、そなの?ガッカリ。」
「怖くなくていいだろうが。それともナニか?お前は“ドウブツにはフシギなチカラがあるんだよぉ”とでも言うつもりか?」
零がレイの口調を真似てみせると、レイは真っ赤になって恥ずかしがり、抗議した。
「ソレあたしー?全っ然似てない!」
すぐに中途半端なモノマネが返ってくる。
「ぜんぜんにてなぁい!」
「もー!!やーめーてー!」
「やーめーてー!」
冷めた表情で、セリフだけをそっくりそのままマネてくるから、ハラが立つことおびただしい。
「んーもーうっ!」
「ん〜も〜うっ」
ホンモノよりいくらか甘ったれた響きをきかせたコレで、レイはすっかりむくれて口をきかなくなった。
「・・・」
「… …くくくっ、わかった。今日はこれくらいにしてやる。」
意地悪きわまりない零の笑い顔を、レイが疑いのまなざしてうかがう。
少しかんがえたあと、彼女は電話の横のメモとペンを手に取った。
“ほんとに?”
汚い、とまではいえないが、子供じみた字が問いかける。
「本当。」
零がつまらなそうに言うとレイは、やっと警戒をといた。
「あー恥ずかしかった!ってゆーかキモチ悪かったってゆーか、零さんコドモー!」
まだ少しスネているらしい。
零は、自分の非を認めない。
「お前に影響されたんだ。俺をいくつだと思ってる?」
本人いわく、軽く1000年や2000年は生きている、らしい。
「えー、ぜったい零さんがコドモなんだよぉ!」
「うるさい。」
とがらせた唇をつねじられ(零はよく、つねる、と、ねじる、を同時に行う)、レイが みぎゅ と悲鳴をもらした。
それでハナシはなんとなく終わってしまい、とうとう零がレイのまわりに何を見ていたのかは、わからずじまいだった。
しばらくたったある日、零は唐突に切り出してきた。
「お前最近、調子悪かったりしないか?」
少し考えて、レイはこたえた。
「なんともないよー?」
「そうか、それは良かったな。」
あきれた、とでも言いたげな顔と声の意味が、レイには何一つわからない。
わからないが、元々 零にはわからない所が多い。
ヘンに追求すると、機嫌をそこねる恐れもある。
レイは、気にしないことにした。
(続)