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居候日記  作者: narrow
34/95

続き 2

 「やめてよっ!」

 これは・・・驚いた。

 まさか反抗するとは。

 強い調子の声は命令と同じ効果を発揮したらしく、俺は手をふり払われた格好のまま一瞬動けなくなった。

 「からかってんのバレてんだからね!」

 本気ではなさそうだが、声が怒っている。

 「あ、ぁあ、わり・・・」

 「ベッドで寝てもいいから、あたしにさわんないで。・・・これ、命令!」

 「ぁ・・・ん、ぃゃ、ハイ。」

 ・・・まさか命令までされるとは。

 基本的にコイツは、俺に命令することを避ける。

 これは、さんざんからかわれた事に対する、レイなりの仕返しなのかもしれない。

 「あの、な、…レイ、怒ってる、のか?」

 本気で怒らせたのか、さすがに心配になった。

 おそるおそるかけた声は、自分でも情けくなる程小さい。

 ちょっとからかっただけだ、まさかそんなに怒りはしないだろう。

 それでも、もしかしたら少しは怒らせたかもしれない、嫌われたかもしれないと思うと、胸の奥で焦りがささくれ立ったツメを立てる。

 自分は好かれているのだからこのくらい平気だ、と落ち着こうとしても得体の知れない感覚は止まない。

 そのくらい、レイからの命令というのは珍しいものだったとも言える。

 小さないくつものキズが、そわそわとうずく。

 レイは、何も言わない。

 やっぱり相当怒ってるのか?

 「…レイ?」

 「ん・・・くふー、くー・・・」

 …寝てやがる。

 「寝つき良すぎんだよ・・・」

 気にするだけムダだったのかもしれない。

 俺も寝ることにした。

 怒っていないみたいだと思うと、妙な危機感もウソのように消えた。

    ◆

 目覚ましを止める。

 低いテレビの音と、コーヒーのいい香り。

 頬杖でテレビを見る、見慣れた黒い小さな影。

 「あ、おはょ、零さん。」

 「おはようございます、ご主人サマ。」

 反応がおかしい。

 なんでだろう、と考えてレイは思い出した。

 「あっ!昨日ごめんね?さわんないでなんてっ…」

 言ってから、さらに思い出した。

 すっかり子供に戻っているが、きのうの零はオトナだったハズで、そのせいで“さわんないで”などと言うハメになったのだ。

 「あれ?零さん元に戻ったの?」

 「今は、昨日のアレが本当の俺だ。どっちかって言えば、これは“変身”になる。…これなら、今まで通りなんだろ?」

 「え?」

 零が、レイの顔に手を伸ばし、指先が唇に触れる直前で止める。

 「さわっても、いいか?」

 「・・・ぇ?あ、うん。」

 カラダのどこか奥から熱気が上がり、顔全体が火照る。

 レイは、眠気からではなく頭がぼぅっとするのを感じた。

 それから、痛み。

 「ぃぎゃっ!」

 唇がつねりあげられた。

 「こ・の・ク・チ・がっ!俺に反抗したのが悪い。自業自得だからな。」

 引きちぎる勢いで引っ張って、手が離れる。

 ふん、と鼻息荒く零は憎々しげに零はレイをにらむ。

 「いたーぃ、ごめんてばーぁ。」

 涙目で謝る、いじめられっ子。

 「命令を正式に撤回しろ、嫌われたくなければな。」

 「取り消すぅ・・・ぃたいよー。」

 「わかったら」

 「さっさとメシ食って出てけ、でしょ?」

 無表情の零が、手を上げる。

 「ひゃっ」

 またつねられるかと、レイが首をすくめる。

 ふわっ、と頭に手がのせられた。

 「わかったら、それでいい。」

 そう言ってまた零は、すぐにテレビのほうを向いてしまった。

 「変なの。でもやっぱ、こっちがいつもの零さんだよね。」

 「昨日も今日も、俺は俺だ。」

 「昨日と同じこといってるー。全然ちがうよー、昨日の零さん、なんかヤラしかったもん。」

 レイの言葉にわずかに振り返った横顔は、目元がご機嫌ナナメ。

 すかさず謝ろうとしたレイより一瞬早く、零が口を開いた。

 「ああいう俺は」

 言いかけて、やめる。

 レイは次の言葉を待った。

 「・・・いや、いい。さっさとメシ食って出てけ。」

 「あー!またそれぇ。やだもーん、ゆっくり食べるもんね!」

 レイはふざけて言い、笑った。

 零は返事もせず、ふいとまたテレビのほうへ顔を戻した。

 朝食は、甘くてやわらかいフレンチトーストが用意されていた。

 

 昨日はごめん

 

 本当は零も、そう思っている。

 レイはそんな気がした。

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