表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
居候日記  作者: narrow
31/95

続き 2

 さっきの、続きだった。

 零でない零が、目の前にいる。

 光る瞳が、まだレイを見ていた。

 「逃げたな?」

 いつのまにか、首にまきついていた彼の手。

 指に、チカラがこめられる。

 一度起きたハズの自分を、夢の中に呼び戻したのは彼なのかもしれない。

 「お前は、もう、目覚めない。」

 何の感情もないしゃべり方は、今でもする。

 けれど、それがこんなに冷たく響くことは、最近では ほとんどなかった。

 でも、出会ってすぐの頃はだいたいこんなだったなぁ。

 恐怖に混じる、ほんのわずかな懐かしさ。

 を、我ながら少しおかしいと感じた瞬間、痛みでまた目が覚めた。

 「−・・・ひ・らぁーぃ(痛い)!!」

 頭が浮くほど、頬をつねりあげられていた。

 「じゃ、さっさと起きろ!言っとくが最初はもう少し手加減したんだからな!!」

 全部言い終わってから、零は手を離した。

 いいかえれば、零が全部言い切るまでレイは頬から吊られていた。

 もちろん、ぎゃあぎゃあ騒いだ。

 すっごく痛いから。

 当然零は気にしない。

 ちょっぴりイラっときてたので。

 「こっちが話してる間に寝やがって。バカにしてんのかテメーは。朝まで一睡もできないようにしてやろうか?あァ?」

 「ごめんなさいゴメンナサイきゃーっ!それでえっと、何の話だっけ?」

 ご ち

 「あいたっ」

 脱力した零のヒタイがぶつかり、レイは地味に痛がる。

 「お前は・本当に・ドマゾだな。」

 低くこもった声は、どうやらご立腹らしい。

 「そんなに」

 言いながら零はレイに、ごちっとヒタイをぶつける。

 「あいたっ!」

 「体罰が」

 ごちっ

 「あづっ!」

 「欲しいのか?」

 ごちっ

 「いだぃって!」

 「あぁん?」

 怒涛の連打。

 ご・ご・ご・ご・ご・ご・ご・ご・ご・ご(10Chain)

 「いたいたいたいたたたたたたーぁっ!イヤッ!」

 「イヤなら話くらいちゃんと聞けっ・・・ん?」

 突然、零は怒るのをやめると、表情をひっこめた。

 視線だけを動かして、部屋の中をチェックしている。

 その目が、レイの後ろ、ベッドのふちあたりで止まった。

 レイも振り返る。

 そこに、白い手があった。

 手の後ろから、黒い髪をした頭が上がってくる。

 ぼんやりと光る、恨めしそうな目が現れた。

 「二度も、俺から、逃げたな。」

 光る瞳は、暗い室内の様子がうっすらわかるほどになっていた。

 「・・・ゃ、いやぁーっ!」

 レイは、悲鳴をあげた。

 思わず、零のたよりない体に抱きつき、薄い胸に頬を強く押し付ける。

 零は、動揺もなく言った。

 「ありゃ俺だろう、何が怖いんだバカ。」

 「怖いっすごい怖い!何とかしてよ零さん!」

 顔をあげることなく、ひたすらその恐怖から目をそらしたまま、レイは懇願した。

 気を悪くすることもなく、むしろ満足げにフン、と鼻で笑うと、零は落ち着き払った声でもう一人の自分に話しかける。

 「・・・もうわかってるんだろう?だから襲ってこないんだよな?」

 そういえば、何もしてこない。

 疑問に思ったレイは、恐る恐る後ろを振り返る。

 もう一人の零は、心なしか驚いた表情を浮かべ、ただ立ってこちらを見つめている。

 正確には、零の顔をじっと見ていた。

 ゆっくりと、口を開く。

 「お前の、名は。」 

 「名前、ね。ゼロって書いて、れい。お前の捜してた名前は、これだろう?俺の名だ。」

 訊かれてすぐに、零は目の前にいるものが、名前を頼りに自分を探していたとわかったようだった。

 もう一人の零が、無表情のままベッドの上へあがってくる。

 「ひゃっ!」

 驚いたレイは、再び零の胸へ顔をつけて、目を固く閉じた。

 肌の上を、頭の中を、胸の奥を、体中を、冷たい空気がすぅっと通り抜けていった。

 不意に、両腕をつかまれる。

 「もう、平気だ。」

 零は強引にレイを引きはがすと、それだけ言って、さっさとフトンをかぶって横になってしまった。

 「え?え、え?」

 周りを見回すと、何が起きたのか自分たち以外部屋には誰もいない。

 「あ・・・、よかったあ、怖かったぁ。ありがと、零さん。」

 返事はない。

 横になったまま身動きもしないカタマリは、気のせいかいつもより大きく見えた。

 その背中に安心感を覚えたわけではないが、ほっとしたレイはまたも一瞬で眠りにおちていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ