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居候日記  作者: narrow
29/95

5 渡り歩く影

 「友達の友達から聞いたんだけどさ。この話聞くとね、夢みちゃうんだって。」

 そう言ってウエイトレス仲間の日向寧々ひなた ねねこ、通称ネコが話した内容は、彼女と一緒に休憩に入ったことを呪いたくなるモノだった。

 少なくとも、怖がりのレイにとっては。

 「なんでそんな話すんのー?」

 非難がましい声でネコをせめても、もう遅い。

 話は、よくありそうな怖いウワサだ。

 夢に男の子がでてくる。

 この話を聞くとその夢をみてしまう。

 名前を聞かれるから、答えないと二度と目を覚ますことができなくなる、というもの。

 名前を答えるときに、漢字でどう書くかまで説明できないと、やはり目覚めることができないのだという。

 「あははっ、ただのウワサだよー。ミミなんか途中で怒っちゃって最後まで聞かなかったけどね。」

 ミミ、というのもウエイトレス仲間で、派手な化粧と金髪タテロールのツインテールが印象的な、スタイルのいい女の子だ。

 少々、性格がキツい。

 「ミミちゃんも怖かったんだよきっとー。ネコちゃんのいじわる。」

 スネた表情でレイが軽くにらむと、ネコは悪気のない様子で笑って、ゴメンてー、とあやまった。

    ◆

 「ほら、来い。」

 ベッドの上の零が、レイの腕をつかんで引く。

 「やなぁ。」

 やだ、と言ったつもりなのに、ロレツが回らないレイ。

 「半分白目でキモチ悪いんだよ、さっさと寝ろ。」

 ふだん寝る時間は、とっくに過ぎている。

 時計は3時を回り、夜に強いわけでもないレイは、落ちる寸前だ。

 眠気と必死で戦う彼女の目は、半分とじかけていて、意識が飛びかけるたび、白目をむいた状態になる。

 それでもなお逆らってベッドに入らず、首を振って零と眠気に抵抗する。

 零は、低くつぶやく。

 「何だか知らんが・・・強情なヤツだな。」

 彼の姿が、一瞬そのシルエットをくずす。

 ふたたび形となった姿は、はるかに大きい。

 「うぅ?」

 久しぶりに見る大人の零に驚いたレイが、疑問符を含んだ声を出した。

 肩と、ヒザのあたりに、妙に細長い彼の腕が回り、レイはあっと言う間にベッドに横たえられた。

 「ただでさえなかなか起きないくせに、俺の負担を増やすな。」

 からみつく低い声は、本来の彼のもの。

 半分レイにおおいかぶさる格好の零から、長い黒髪が遮光カーテンのように垂れ下がる。

 レイの目に映るのは、黒い背景に浮かぶ零の顔だけ。

 少しだけ、目が覚める。

 自分が恋した、白い顔。

 見つめるほど寂しさを感じる、淡い色の瞳。

 傷口に似て紅い、薄い唇が、にぃと笑った。

 「見とれるほど好きか?俺が。」

 瞳をうるませたレイが、小さくうなずく。

 眉を寄せ、悪人の顔でくっくと笑うと、零は一瞬で元の子供に戻った。

 「なら逆らうな。」

 声も、子供に戻っていた。

 どうやっているのか、いつものように手も触れず部屋の照明を落としながら、自分もレイの隣に寝る。

 「ぁぃ。」

 聞き取るのがやっとの小さな返事をした、とほぼ同時にレイは眠りに落ちていた。

 軽いイビキまでかいて。

 その小さな音を聞き、零は鼻で笑った。

(続)

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