表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
居候日記  作者: narrow
28/95

続き 4

    ◆

 微笑んでいるレイの寝顔を、朝の日差しが清々しく照らす。

 その頬を、零はわりと思いっきりつねりあげた。

 目覚ましを反射で止めて、二度寝しているようなイギタナイ(寝穢い)ヤツに、遠慮はいらない。

 「イターイ!」

 甲高い声に、零は顔をしかめる。

 「目覚まし止めたんなら起きろ。ニヤけた寝顔しやがって。」

 吐き捨てた零に、レイはそぐわない笑顔を向ける。

 「だってーえ、スゴくいい夢だったんだもん。」

 俺、だろうな多分。

 自意識過剰な零の考えは、しかしこの場合かなりの確率で正しい。

 あの“生霊”状態が無意識下であっても、零に“よしよし”された事が夢に影響する可能性は大いにある。

 「そうか よかったな。さっさとメシ食って出てけ。」

 言うだけ言って零は耳をふさぎ、フルパワーで聞きたくないという意思表示をした。

 どうせ聞くだけで耳が腐りそうな、イタい夢に違いない。

 「ちょーシツレーなんですケド。」

 ふくれっ面で文句をたれつつ、のろのろとレイは起き出した。

 レイが着替える間も、化粧をする間も、零はさりげなく振る舞いながら絶対に彼女の方を見ない。

 それは気づかいではなく、見られたレイのリアクションを想像するだけで疲れるからだ。

 興味もない。

 “悪魔”が繁殖行動を取るのは見たことがないし(そもそも悪魔同士が出会えば即殺し合いだ)“つがい”にも出会ったことがない。

 まして零は、性欲のたぐいを主食にする“淫魔”でもない。

 レイの心がどっちを向いているか、に関心はあっても、そのカラダが出っぱってるとか引っこんでるとかは、どーでもいい。

 「じゃ、そろそろ行くね、零さん。」

 レイが立ち上がり、バッグを肩にかける。

 「カギ、閉めてやる。」

 「え?あ、アリガト。」

 少し驚いた顔のレイ。

 普段、そんなことすらしない居候だった。

 とはいえ。“悪魔のいる部屋”に、施錠が必要かどうかは疑問だが。

 靴をはくレイのすぐ後ろには、零がいる。

 「零さんがお見送りしてくれるの、何かヘンな感じ。」

 小さく笑いながら、レイが零の方へ向き直る。

 「そういう日があっても、いいだろ?」

 笑うことも、怒ることもなく零が返す。

 「そういう日、ってことは、今日だけかあ。」

 そう言いながら、はじめから期待していなかったらしいレイは残念がる様子もない。

 「毎日してほしいなら命令すればいい。」

 「それじゃ意味ないのー。じゃ、いってきまーす!」

 一言 反論してから、レイは微笑んだ。

 だらしないくらい油断しきった、曇りのない笑顔。

 見慣れすぎていて、これこそが本来の顔つきとも思える顔。

 「ん。」

 短すぎる答えに見送られて、たよりない背中が出て行く。

 出たところでまたすぐ振り向いて、勝手に閉まろうとするドアを押さえて小さく手を振ってきた。

 それには追い払うしぐさで答え、零は内側からドアノブに手をかける。

 「じゃね!」

 それであきらめがついたのか、それでも音符がちりばめられていそうな楽しげな声を出すと、レイは今度こそ歩き出した。

 数歩分、それを見送ると零はレイの背に声をかける。

 「俺はお前を彼女とは思ってない。が、俺なりに気に入ってる。それで満足しとけ。」

 大きくも小さくもない、温かさもないが、けれど決して冷たくは聞こえない声で。

 振り返ったレイの顔が、笑顔になりきる前に零はドアを閉め、施錠した。

 想像するだけで疲れるレイのリアクションなんて、わざわざ見たくもない。

 少ーしだけ、零のことがわかってきたらしいレイは、それで彼の意思を感じ取ったらしく、そのまま出かけていった。

 その日、帰ってきてからもレイは幸せそうでメンドくさかったが、元気がないよりは多少うっとうしい方が彼女らしい。

 面倒なはず、なのに今日はそれが少し楽しい。

 変わっていく自分を、零は感じ取っていた。

 そこには、不安と、疑問が同居する。

 けれど今は、まだこのままでいい。

 このままでいたい、そう望んでいた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ