続き 3
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ふだんより少しうっとうしさが増している気はしたが、その日眠るまでレイに変わったところはなかった。
圧迫感を感じて、零は目を覚ます。
レイがいた。
上から、零の顔をのぞきこんでいる。
憎らしげに自分を見る暗い表情は、とても彼女とは思えない。
彼女は、自分の隣で寝ている。
しかし、今ベッドの横に立って零の顔をのぞきこんでいるのも、レイだ。
これは生霊、と呼ばれるものだ。
強い思いに支配されて、無意識に憎い相手や、愛しい相手のもとへ精神だけがさまよい出てしまったりするもの。
これだけ近くにいながらそんなものが出るのは、理解できないが。
「なんだよ、言いたいことがあるなら直接言えよ。」
カラダから抜け出るほど、何を思いつめるというのか。
心当たりがあるとすれば、今日遊びにきたユゥのこと。
しかし、まさかあんな小さな子供に、そこまで対抗心を持てるものだろうか。
疑問に思いながら零は、とりあえず説得してみる。
「戻れ、カラダに。そんなんでフラフラしてると簡単に死ぬぞ。言いたいことがあるなら明日きく。」
冷たくみえたレイの顔が、やや見慣れているスネた表情に変わる。
零の顔をのぞき込むのをやめると、両手をグーにして、ばたばた腕をふりまわした。
まるで、だだをこねる子供だ。
「お前なあ・・・」
子供、なら子供にライバル意識を持つだろうな。
半身を起こし、ちょいちょい、と零は小さく手招きした。
レイは、ばたばたをやめるとふくれっツラで零を恨めしそうに見た。
零は、なおも手招きする。
口をとがらせた表情で、レイが顔を少しだけ近づけてくる。
手招き。
レイがさらに顔を近づける。
そのアタマを、よしよししてやる。
一瞬びっくりした顔をしたレイだったが、零の目を見て、ゆっくり満足そうに笑った。
声は出ないようだが、笑うカタチに口が開いている。
両手を広げて、大の字に背中からベッドに飛び込むと、そのままカラダに戻ったらしかった。
寝ているレイ以外に、部屋にはもう誰もいない。
彼女なりに、無理をしていたのだろう。
心と体が、バラバラになるくらい。
「そこまでガマンすんなよな・・・。メンドくせぇ。」
面倒といいながら、改めてベッドにもぐりこむ零の口元は少しゆるんでいた。
つまりは、それほどまでに想われているのだ、と。
(続)