続き 2
◆
レイのちょっとしたストレスは、実はしっかり零に伝わっていた。
何せ彼は、“悪魔”だ。
不安と、嫉妬。
どちらも“悪魔”の良い養分だ。
ついでに、嫉妬の原因がささいであればあるほど、レイが自分に執着していることが感じられて、零は気分がよかった。
その後レンタルショップでDVD(過去のアンパンジャー作品)を借りる時も、家まで帰る間も、帰り着いてからも、ユゥちゃんは零にベッタリだったが、零はそれを放っておいた。
レイも大人だったから、表面上は何事もないかのように、ユゥちゃんと仲良くしていた。
彼女が帰るまで、きちんと。
「ゆーう、そろそろ帰れ。」
暗くなり始める時間帯になり、零はユゥちゃんにそう言った。
「おうちまで送ってくれるなら帰るーぅ。」
はい、またワガママ始まりましたー。
口には出さず、零は思った。
レイも、そんな顔をしていた。
「ユゥ、そういうワガママはダメだ。」
珍しくマトモなお説教らしき言葉を口にした零を、レイが少し驚いた目で見つめる。
「えー、ユゥちゃんワガママじゃないもーん。」
「ワガママだ。」
零の言葉に、レイが小さくうんうんとうなずく。
「いいかユゥ、いつも言ってるだろ?相手に言うことを聞かせたかったら、可愛く“おねだり”するんだ。できるな?」
続いたセリフに、レイの表情がいぶかしげなものに変わる。
「いつも?」
レイの疑問に、答える者はいない。
「あ、そっか。レベルの高い愛人は“おねだり”がうまくないといけないんだもんね。」
ユゥちゃんの言葉を聞いて、レイの表情はさらに曇っていく。
「ああ、そうじゃないと“彼女”に負けるぞ
?」
うん、とうなずくと、ユゥちゃんは一瞬きりっとした表情を見せた。
レイはあんぐりと口をあけ、間抜け全開の表情を浮かべる。
「ユゥちゃんー、ストーカーとか怖いしぃ、どうしても なゆに送ってほしいのー。」
カラダをクネクネさせ、困ったふりをしてみせるユゥちゃんに、零が心なしか満足げな目でうなずいた。
「そうだ、か弱いフリはいろんな場面で使えるからな、普段から積極的に出していけ。それが、良い練習になる。」
「うん、ユゥちゃんりっぱな悪女になって、なゆに好きって言わせるからね!」
「ふふ、じゃうまくできたゴホウビに今日は送ってやる。次から一人で帰れよ?」
ぱかーんと口をあけたまま、動けずにいるレイを放置で、零とユゥちゃんは部屋を後にした。
「なにコーチしちゃってんの・・・零さん・・・」
一人残されたレイは、小さな声でつぶやいた。
(続)