続き
菓子パンソルジャー・アンパンジャーとは、アンパンマスクをかぶった日曜朝10時のヒーローで、子供に大人気だ。
マスクについたアンパンから飛び出す、パン屋で働く恋人馬多美の作った失敗作”激マズあんこ”を武器に、必ず虫歯になる菓子で世界制服をもくろむ悪の菓子メーカーと戦うのだ!やれ、いけ、あーんぱーんじゃーぁあああ!
…零はその勧善懲悪のストーリーよりも、超天然という設定の恋人、馬多美の一挙一動が主人公アンパンジャーを結果的に追い詰めるさまが楽しみでほぼ欠かさず見ている。
ちなみに、アンパンジャーの変身前はイケメン俳優 松平剣一(愛称はマツケン)で、お母さんたちに人気があり、当然のように馬多美を演じる宮垣あかねは(お母さんたちには)不人気だった。
「レイちゃんがつれてってくれるんでしょー?ありがとお。」
恋敵とはいえ、小さな子供に笑顔で言われては、ひっこみがつかないレイだった。
「そ、そうだね、じゃ準備するから待っててね」
なんとか笑顔を作ると、ユゥちゃんと零からトドメの一撃が投げつけられた。
「はやくしてねー。」
「あがれよ、ユゥ。どうせあいつ支度おそいから。」
どちらもくやしかったが、化粧をしているときに興味深そうにのぞきこんできたユゥちゃんは、妹みたいで可愛かったりもした。
レイは、子供が好きだった。
しかし、お姉さんとして接するというよりは、同化して仲良く遊んじゃう系だった。
そんな彼女が、アンパンジャー劇場版「最悪!ねりあんこハミガキ計画!」を、楽しく見ることができたのは、決してその子供っぽさだけが原因ではない。
「アンパンジャーの人すごいカッコいぃー!」
胸元をおさえてレイが悶えた。
「だめー!マツケンはユゥちゃんとケッコンすんだからー!」
映画館から出てきた時には、レイはすっかりマツケンファンになってしまっていた。
興奮してきゃあきゃあ言った後、二人はふと零の反応が気になり、彼のほうを見る。
前を歩いていた零は、急に静かになった後ろを振り返る。
ユゥちゃんとレイが自分を見ていた。
彼女たちの会話を思い出しているのか、一瞬だけ間を空けてから、零は二人に答えをくれてやる。
「・・・勝手に奪い合ってろ。行くぞ。」
その冷たく、彼らしい態度にレイは諦め顔で笑う。
「あは、だよねぇ。」
「えー!なゆもユゥちゃんをマツケンとうばい合うんでしょー!」
さすがにワガママ少女はそれでは納得しない。
100%自分の願望を零にたたき付け、恋人然として彼の腕にからみついた。
そんなユゥちゃんの馴れ馴れしい態度が、零の機嫌をそこねやしないかと、レイは心配そうにそれを見守る。
それでユゥちゃんと零が気まずくなれば、レイには都合がいいハズなのだが、ユゥちゃんが悲しい思いをする方がよっぽど心配なのが、レイの性格だった。
「なんでだよ。」
零はただそう言っただけで、特に怒ってはいない。
それに安心するレイは、これ以上ないくらい奪い合いという状況に向いていない。
それでも、さらにワガママをいいつつ零にくっついているユゥちゃんは気になる。
うらやましさを隠しきれない眼差しで、二人を見つめるのだった。
(続)