続き 5
◆
「どうしてぇ・・・?」
帰宅したレイは、部屋にいた二人を見てつぶやいた。
「こんなの、こんなの、き・い・て・なぁーーーい!」
叫ぶ彼女を、零と優奈が見上げていた。
「ちょっと零さん!約束違うじゃんもう会わないって言わなかったぁ?!」
確かにその通りだ。
自分をを好きになった優奈を、零がただレイにヤキモチをやかせるためだけに利用した事に、レイは心を痛めた。
そんなレイに負けて、零はもう優奈と会わないと自分から約束していたのに。
その零は、悪びれもせず言った。
「な・ゆ・た、だろ。それからな、約束は確かにしたが、事情が変わった。」
「なにそれ。」
すっかりイライラしちゃっているレイは、呼び間違えたことを謝らず、多少挑発的に先を聞こうとした。
イイワケできるならしてみなさい、という所だ。
ふふん、と笑うと零は優奈に顔をむけた。
二人の後ろでは、テレビアニメが流れている。
「なぁユゥ、俺に彼女がいるって知ってるだろ?」
これで、相手を一方的にもてあそぶという状況ではなくなる。
「えっ、零さ?!」
言われた優奈より先に、レイが驚きの声をあげた。
それって、誰のこと?
「うん、でもユゥちゃんアイジンだからいーの!きゃぁははは!」
すかさず可愛らしく、無邪気な声をあげる優奈。
「だ、そうだ。どうする?レイ」
コドモらしくない影のある、たくらみ顔で零がニヤリと笑った。
「ぇ、・・・えぇー?そ、それでいいのぉユゥちゃあん?」
泣きそうな困り顔でききながら、その彼女ってあたしかな?あたしであってるのかな?と、喜びと不安のいりまじる疑問がレイの胸をぐるぐる渦巻いた。
そんな彼女をよそに、ユゥちゃんの無邪気な笑顔は変わらない。
「うん!だって“りゃくだつ”しちゃうから。ユゥちゃんの みりょく でぇ、なゆ奪っちゃうんだもん!」
遠足の予定でも話す顔で、楽しそうに優奈はそう言った。
「えぇ?ええ?!えー・・・」
「くっくっく・・・」
大人のくせに何もいえないレイを見ている零が、抑えきれない忍び笑いをもらした。
「あたし、負けないからね。」
小さくレイがつぶやくと、零は意地悪く冷たい目で彼女を見る。
「ふーん?」
「あ、ぇ?あ!違くて、彼女とか思ってるんじゃなくて、立候補で!あのっ、ちがっ」
気まずい視線に、レイはあわててイイワケした。
あっという間に立場逆転だ。
勘違いだったかな、と落ち込むレイ。
そこへ、優奈が追い討ちした。
「レイちゃんはさあ、同い年のオトコ見つけたほうがいいよ?」
ヨユーな得意顔で、上からおっしゃる。
「レイちゃん・・・オトコ・・・」
レイは、ワガママ少女の真の姿を見せ付けられ、これがガチの勝負なのだとやっと気づいた。
勝っても負けても恨みっこナシ(でもきっとユゥちゃんは恨む)で、血の雨を降らす戦いなのだと。
相手のことを考えてたら、まちがいなく(零を)持ってかれてしまう・・・!
決意も新たに握りこぶしを固め、とりあえず今は唇を噛み締めて耐えるレイなのだった。
「なんか・・・暑っ苦しいぞお前。さて、ユゥ、送っていくから、帰る準備しろ。」
あきれた顔でレイに投げかけた後、優奈にはいくらか優しい声を出す。
二人が見ていたアニメも、ちょうど終わっていた。
「え、行っちゃうんだったらあたしもついてく!」
あわてて付いてこようとするレイを、零が振り返る。
「じゃ、一緒に遊んでるときもずっと付いてくるつもりか?」
「ぅ・・・むり、だけどぉ!」
「ウザい。クドい。ここにいろ。」
あまりの冷たい言葉にうっすら傷つき、レイは少し泣きたくなった。
「いこっ、なゆ。」
支度を終えた優奈が、零の腕に自分の腕をからませた。
「んんんぅ〜〜〜!」
くやしくて、ついレイはうなってしまう。
目をうるませて、顔もほのかに赤い。
「はー。・・・バカ。」
タメイキをつき、小さくつぶやくと、いってきますも言わずに零は出て行った。
一人部屋に残されると、レイはベッドにダイブし、枕に顔を押し付けながら両手をグーにしてばんばんとマットを殴る。
「・・・どっちがバカだぁ!あー!もー!零さんこそ、ばかばかばかぁ!!」
激怒しながらも、さん付けなあたりが永遠に負け決定のレイだった。