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居候日記  作者: narrow
15/95

続き 6

   ◆

 食後、落ち着きを取り戻した零は、イライラの原因について考えていた。

 あの公園にはユゥがいる。

 ユゥがいること自体は、なんの問題もない。

 顔をあわせたなら、ついでに自分に関する記憶を消してしまえばいい。

 問題なのは、零の記憶のほうだった。

 自分を好きになったユゥを、零はもてあそぼうとして、その行動がレイを悲しませた。

 少し見せ付けて、からかうだけのつもりが、本当に気まずくなってしまった。

 冷たくしても、すぐに笑顔を取り戻すから、突き放していられたのに。

 彼女はいつも、元気でいなければならない。

 零は、知らず知らずそれを望んでいる。

 元気のないレイは、零の気持ちを暗くさせる。

 その反応は、願望は、無意識。

 自分のことをいつも全て正確に把握できる存在など、人であれ魔物であれ、居はしない。

 いつも元気なレイを、そうでなくさせてしまった、失敗の記憶にまつわる場所が、あの公園だった。

 当然、ユゥの顔もいまさら見たくはない。

 あの時のことは、あまり思い出したくない。

 それでも、影を回収するにはいくしかない。

 気が重いのをまぎらわせるためのヤケ食いで、一応の気持ちの整理はついた。

 そこでなぜヤケ食いを選んだのかは、零自身にもちょっとわからないが。

 テレビドラマをみながら、もにょもにょとマンゴープリンをぱくついているレイにチラリと目をやる。

 零が影を回収してしまえば、もう帰り道で彼女がおびえることもない。

 これで、うるさく迎えをせがむことも、しばらくはなくなるだろう。

 零の目に気づいたレイが、微笑みかけてきた。

 当然の態度に、いちいち反応する必要はない。

 零はただ視線をはずした。

   ◆ 

 次の日、ユゥちゃんの思っていた通り、なゆた は公園で待っていてくれた。

 「なゆー!」

 手を振りながら、駆け寄るユゥちゃん。

 いつもなら、むこうからも近づいてきてくれるのに なゆた は動こうともしない。

 ただ暗い顔をして立っている彼に、ユゥちゃんはとにかく謝った。

 「ごめんね、なゆ、ユゥちゃんほんとは昨日もなゆと・・・」

 「ウソツキ。」

 今まで聞いたこともないくらいつめたい なゆた の声に、周り中の空気が凍るのを、ユゥちゃんは感じた。

 身動きも、イイワケもできない、そんな気がする。

 絶対的な絶望が、この場を支配していた。

 これまではずっと、優しく自分にそそがれていたハズの視線が、今はただ怖い。

 嫌いだとか、怒ってるとか、そんなものではない。

 いうなれば、殺気。

 何をされるかわからない恐怖で、ユゥちゃんは身動きができずにいた。

 「ぁぅ・・・ぁ・・・」

 ほとんど声にならない声をしぼりだすのがやっとで、何もいえなくなっているユゥちゃんに、なゆた が自分の方からさらに近づいてきた。

 くっついてしまうくらい体を近づけて、なゆた はユゥちゃんの頭を両手でおさえた。

 顔が近すぎて、目と目が合ったまま、そらすこともできない。

 「ウソツキ、ウソツキ、ボクずっと待ってた、ずっとずっと待ってたのに、ユゥちゃんウソついた。」

 怖い、のに、悲しそうなその声に、ユゥちゃんはあわれみを覚えた。

 彼のことが、ダイスキだったから。

 「ごめんね、なゆ」

 恐怖を一瞬だけおしのけて、彼への謝罪がもれる。

 「だめ。約束しても、守ってくれないなら、もうどこにもいかないで。」

 恐怖と、裏切った後悔、彼の悲しみを思う気持ちが、涙となってユゥちゃんの目にあふれる。

 「ごめ・・・いるよ?ユゥちゃんいるよ、なゆといっしょに」

 「ずっと一緒に、いて?」

 威圧しながらも、哀願する響きと共に なゆた の瞳に、昼間の明るさの中でもわかるほど、強い光がはじけた。

(続)

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