続き 5
◆
「零さん・・・何ソレ・・・」
レイが呆けた声でたずねた。
「大盛り。」
「や・・・にしても
ちょっと盛りすぎ
じゃ、ないかな・・・それ」
キッチンから零が運んできた2人前のハズのスパゲティ。
それは片方だけ異様な量が盛られており、少しでも振動を感知しようものなら、ただちに大崩壊を起こしそうに見えた。
その異様なスパゲティを絶妙なバランス感覚で運んでくると、零はそれを自分のほうへ置いた。
成長期ってことなのかな、と
レイは思ったが、怒られそうなので言わない。
がつがつ、がつがつ。
いつもと同じ無表情、無言で零がスパゲティをほおばる。
その動きはイライラとせわしなく、あわただしい。
「何か、急いでるの?
零さん。」
「・・・別に。」
せかせか、がつがつ、せかせかがつがつがつ・・・。
子供の体には多すぎる量のスパゲティが、みるみるうちに減っていく。
「ヤケ食いみたい。」
イライラと大量の食事をたいらげる彼を見ての、素直な感想に意外な反応が返ってくる。
「正解。」
「え・・・。」
一言だけで答えると、零はまた続きを口に運び出す。
とても人間くさい行動が意外
すぎて、レイはポカンとして
しまう。
そうなりながらも、もりもり
食べている彼を見ていると、
なんだかすごくおなかがすいて
いる気がしてきて、自分の分に
手をつけた。
零の作る食事は、特別うまくもマズくもなく、実はレイ自身が作るもののほうがおいしい。
それでも、彼が作ってくれたというだけでレイにとってはゴチソウだ。
だから、彼女はその本当は大しておいしくもない食事を、おいしい、と思いながら食べる。
「ん、今日のもおいしー。ねぇ零さん、なんでヤケ食いなんかしてんの?」
「イライラしてるから。」
それはそうだろうが、こういう場合はそのイライラの原因を答えるべきだろう。
零は、答えをはぐらかしていた。
なぜなら、説明が面倒だから。
だが、レイのウザさはそんなことではごまかせない。
「なんで?」
きょとんとした顔で、彼女はつっこんでくる。
答えずに零は、残り少なくなってきたスパゲティを口につめこむ。
無視されて、やっと、レイはきいちゃいけない事だったのかな、などと考え始めた。
彼女がまだ三分の一も食べないうちに零は食器を片付け始め、冷蔵庫からなにか出してくる。
「チョコレートプリン・・・。」
可愛い!という言葉をのみこんで、レイは彼が出してきたものの名前をつぶやく。
確かに子供がプリンを食べる姿は可愛らしいのかもしれないが、とんでもない量のスパゲティを一気食いしたあとにプリン、というのはそれにあてはまるのだろうか。
その後、彼はさらにミルクプリンにイチゴプリンにマンゴープリンを、冷蔵庫から出しては食べ続けた。
ただ、最後のマンゴープリンは失敗だったようで、一口食べるとスプーンがとまった。
「あれ?どしたの?おいしくない、とか?」
レイの言葉に、やや渋い表情をして無言でうなずく彼。
「あの、いらないんだったら・・・それ、ほしーなー・・・。」
やはり無言のまま、彼がプリンをレイのほうへ押しやった。
「やったぁ!」
レイはマンゴープリンがキライではなかったし、零の食べかけというのも実はちょっと魅力だった。
子供のように、たかがそのくらいのことではしゃぐ彼女を、ホンモノの子供にしか見えない零は少しあきれた目で見る。
「ところで、なんで普通のプリンは買わなかったの?売り切れ?」
「好きじゃないんだ。」
じゃあなんでわざわざプリン買ったのかなー、と思うが、機嫌をそこねたくないのでツッコまないでおいたレイだった。
(続)