続き 3
◆
「・・・ってことらしくてぇ。あの公園の前は、通らなくても帰ってこれるんだけど、やっぱ暗くなると怖いし。あの、おむかえ、とか」
「パス」
レイの部屋で、零とレイが話している。
公園にオバケが出て怖いから、迎えに来て欲しい、というハナシだ。
「やっぱり・・・ぅぅ。」
レイのオネガイを、零が即
却下し、彼女はしょんぼりうなだれる。
零が小さくなってからというもの、いろんなところに散らばった彼の一部、“影”が起こす怪異のせいで、怖い事件やウワサが、レイのまわりには絶えない。
そのせいで、もう何度もレイは零に”おむかえ”をオネガイしていた。
原因は彼自身であるのに、彼はその責任をとることなく平然と彼女の要求を却下してしまう。
それはいつも命令のカタチをなしておらず、よって却下も簡単だった。
彼女は彼女で、元をたどれば零が悪いのだ、という事実に気づいていない。
だから、却下されるとおとなしく引き下がり、また何かが起こればダメもとで泣きつく、ということを繰り返していた。
はーぁ、
とタメ息をついて雑誌をめくり始めたレイの隣で、零は幽霊のウワサについて考えていた。
発狂・・・前に俺の一部がひとり歩きした時も、犠牲者は恐怖に支配された心そのものを喰われて、狂ったとか廃人になったとか言われていた。
なら、今度も。
◆
「ユゥちゃん、ユゥちゃんが笑うとボクも楽しい。だから、もっと笑って?ね、遊ぼう?」
なゆた が楽しそうに、綺麗な顔で笑う。
「でも・・・ユゥちゃんもう
暗いから、帰らないと・・・。」
暗くなるまでに帰ってきなさい
というのが
彼女の母親のいいつけで、
今現在、日は沈みかけていた。
「暗いから?
何で帰らないといけないの?
夜のほうが楽しいよ!
真っ暗で、涼しくて、
昼間なんてダルいし、
明るくてつまんないよ。」
「ママに、怒られるから。」
「なにそれ。」
不思議そうな顔で、なゆた がたずねる。
「怒られると、どうなるの?」
「こわいの・・・
泣いちゃうかも。」
ユゥちゃんの顔が暗くなり、
うなだれる。
「ヤなの?」
「うん、そう。」
「怒られるのイヤだから、帰りたいの?」
怒られる、ということがこの なゆた には解らないようで、本気でそれをきいていた。
「そーだよー、あたりまえ!」
「・・・じゃあ、
いいよ、帰って。バイバイ。」
寂しそうに なゆた がそう言って、胸のあたりで手を小さく振る。
「あしたね、なゆ。」
そんな顔をされると、ユゥちゃんも悲しくなって、元気にバイバイとは言えない。
せめて明日の約束を、と口に出すと、なゆた が表情を輝かせた。
「明日、また来てくれるの?絶対?」
「うん、ぜったい。
ぜったいね。」
ゆびきり、といって小指を差し出すと、なゆた は指切りを知らないようだった。
小指と小指をつないで、約束をして、次の日には手をつないで公園の外を走り回って遊んだ。
「なゆ、手ぇつないでこ!」
ユゥちゃんが差し出した手を、なゆた は握る。
「つめたいねー、さむいの?」
ふるふると、なゆた は首をふる。
やわらかそうな黒髪が、その動きにあわせて揺れた。
冷たい彼の手を、ユゥちゃんはもう片方の手で、軽くなでた。
「さむかったら、ユゥちゃんがあったかくしてあげるね!」
「別に、平気。」
寒い、とか暑いとか、そんなことは彼にとってなんの障害にもならなかったし、感覚として感じはするものの、気にしてなどいなかった。
暑くても寒くても、
どうでもいい。
ただ、握った手の小ささ、やわらかさと、同時に感じるこの温かさは、ひどく大切に思えた。
(続)