1 八つ当たり。
使い魔日記の続編にあたりますが、こっちから読んでもたぶん大丈夫です。
ウチには、もうずいぶん前から子供の姿をした自称”悪魔”が、住みついている。
最初、バーでべろんべろんに酔っ払って出会った当時、彼はびっくりするほど背の高い、大人の男だった。
その彼に、あたしは恋をした。
ほとんど、見た目に一目惚れしたようなカタチだった。
それが、いろいろあって、あたしの方から誘ってこの家で一緒に住むようになり、いろいろあって彼は子供の姿に変わってしまった。
姿がかわったのは、“悪魔”としての力を失ったせいらしく、あちこちにちらばったその力を、見つけては回収している。
そんな彼とついこの間まで、あたし達はこの狭いワンルームで、うまくいっているのかいないのか、なんとも言いがたい共同生活を送っていた。
ついこの間まで、というのも、今のあたし達はたぶん、結構うまくやれていると思うから。
俺はお前のイチバンになりたい。
この言葉をきっかけにして、時に他人よりも冷たかった彼は、ほんの少しだけ優しくなった。
たぶん。
だけど、前みたいに意地悪されたり、振り回されるのは全然かわらなくて、なんだかあたしの反応を楽しんでるだけなんじゃないかって気もする。
だから、イチバンになりたい、なんて言ってても、むこうがあたしをどう思ってるのかはちょっと謎。
だけど、あたしは信じたい。
だって、好きなんだもん。
一緒にいて、嫌な思いもたくさんしたけど、あまり笑わなくて、どこか悲しそうな瞳をしたあの人を、どうしても嫌いになれなかった。
それどころか、時間がたつほど、あの瞳が気になっていった。
こっちのことをどう思ってるのか、よくわからない態度に心を引っかき回されて、どんどん後戻りができなくなって。
一緒にいるのに、あの人のことは、意地悪だってことと、食べ物の好み以外、ほとんどなにもわからない。
それでも、いつかあの瞳の理由がわかったら、その悲しみをなくしてあげられたら、その時、本当のあの人に会える気がする。
そうしたら、きっともっと好きになる。
だから、彼がイチバンになりたい、って本当に思ってくれたなら、もしかしたら、いつかは。
でも今は、きっとまだまだそんな日は遠いみたい。
そんなあたしたちの日常は、たとえばこんなふう。
(続)