↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR

隣国の第二王子が公開婚約破棄。高潔令嬢の心の声が全部聞こえるのですが、面白そうなので私が拾っていいですか?

作者: 久世朱里
掲載日:2026/08/04

 公開婚約破棄された転生侯爵令嬢は、隣国の王太子と王女に溺愛されています。


 本人の気持ちは別でも、私が大満足なんだから、ハッピーエンドでいいよね?


◆◇◆


「君とは婚約破棄する」


 城にご招待した隣国ドラグニア王国の第二王子ビクトールが、婚約者として連れて来た侯爵令嬢に夜会会場で公開での婚約破棄を言い渡している。


 侯爵令嬢は倒したテーブルの白いテーブルクロスの上に座り込み、シャンパンのグラスを頭に乗せている。


 何もない場所で侯爵令嬢がいきなりシャンパンのグラスが並べられていたテーブルに突っ込み、台無しにした。


 隣国で公開での婚約破棄なんて正気を疑うレベルの暴挙だけど、まあ、大事な隣国との外交の席で婚約者がこんな事をすれば、婚約破棄もしたくなるだろう。


 場合によっては、即、婚約破棄して切り捨てた方がいいまであるかもしれない。


 令嬢は黙って聞いている。


「申し訳ない。俺の管理不足だ」


 隣国の第二王子が、お兄様——この国アルヴェリア王国の第一王子ローランドに謝っている。

 お兄様も侯爵令嬢には引き気味だ。


「愚鈍で問題ばかり起こす。連れて来るのではなかった」


 令嬢は立ち上がって俯いてじっと聞いている。


「いや、そういう事故も起きるでしょう。大丈夫ですか?」


 お兄様がなんとか気を取り直し、紳士的に令嬢を気遣っているが……。


  うーん、起きるかしら?


「おやめください。調子に乗らせるだけです。側に置けば災難を引き寄せてこの場がますますつまらなくなる。分かっているな、すぐに出て行け」


 隣国の王子が令嬢を追い出した。


「はい」


 令嬢は短く高潔に答えて静かに去って行く。


『たくっ、帰れっていうから帰るけど、どうなっても知らないわよ、王子? 呪われてんのは私じゃなくて、自分だって知ってるでしょう? 隣国で良いカッコしたくてしょうがないんだから、王様が私を付けたのも当然ね』


 ん? なんか聞こえてきました。


『バカ王子の面倒なんて見てられないけど、ほっとくと国に迷惑がかかって、うちの侯爵家だって大変だもの。これくらいどうって事ないわよ……ううっ。

 べ、別に、この国の王子様——ローランド様に変な女だと思われたからって、どうって事ないし! 最初から、相手にして貰えると思ってないし! むしろ、記憶に残ってくれて嬉しい……わけないーーーーーいぃ!!

 いやあああぁぁぁ!!! きっと、後でローランド様が私の事を恋人や婚約者に話すに違いないわ! 『隣国の王子が面白い女を連れてきてね。シャンパンタワーに突っ込んで婚約破棄されてたんだよ。あははは、面白いだろう』とか言って、『本当に、面白いわ。その女、隣国まで来ていい恥晒しね。私が、そんな女じゃなくて良かったわね』『ああ、君の様な素敵な人と出会えて良かった』ってキスしたり抱き合ったし始めるんでしょう!! クソッ! 私の事を肴にイチャつきやがって! 全部、バカ王子のせい!! バカ王子ぃぃぃ死ねえぇぇぇぇぇ!!』


 んん?


 侯爵令嬢の言ってる事、おかしくない?


 そんな変な女の話から、ラブシーンに移行するってどんなカップルだ!?


 だいたい、私のお兄様のローランドは、そんな女性を笑い者にしたりしないから!!


 何より、すました顔で、高潔に立ち去っていく令嬢の心の中が変!!?


 ……。


 いや、面白すぎるでしょう!!




 私は、この国の王女でアナスタシアと言います。

 特技は人の心の声が聞こえること。

 と言っても、本当に勝手に聞こえるだけで、狙って誰かの心の声を聞いているんじゃありません。

 無差別に他人の心の声が聞こえて来るだけです。


 夜会では、ひたすら何を食べようか考えている令嬢や、結婚相手を探して焦っている令息の声が聞こえてきて、面白いと言えば面白いですが……今夜ほどは面白くない。


 隣国の侯爵令嬢のユリアナ・アルベール様の心の声は別格ね。


 いつもの退屈なだけの夜会を変えてくれる、おもしれー女、発見ですわ。


 今夜は、特別面白くなりそう。


◆◇◆


 隣国の侯爵令嬢のユリアナ・アルベール様。


 シャンパンに塗れて婚約破棄された惨めな侯爵令嬢、と、他の人には見えるのだろうけど、心の声を聞いてしまった私には彼女をそんな風に見る事は出来ません。


 ユリアナ・アルベール侯爵令嬢は威風堂々とした、超面白い今夜の主役です。



『ボンクラ王子が帰れって言うんだから、帰りたいけど、王様の手前、そう言うわけにもいかないわね。一度目の呪いは私が受けて、シャンパンの並べられたテーブルに突っ込む事で避けたけど、二度目が来たらどうする? まあ、私がいても変わった避け方は出来ないし、同じようにテーブルに突っ込んだら、今度はこの国の王子のローランド様に追い出されてしまうかも……嫌アアアァァァ!

 これ以上はローランド様の前で恥をかきたくないわ! きっと、婚約者に語って聞かせて、結婚して生まれたばかりの赤ちゃんにも『早く大きくなって、シャンパンタワーに二度も突っ込んだ令嬢の話をしてあげたいな。きっと爆笑してくれるよ、あははは!』とか言うんだわ! 孫の代まで語れる!! 伝説になるわ!!!』


 だから、なんでそうなるの!?


 なんで子供が産まれてすぐに、おもしれー女の話を語って聞かせたくなるのよ!?


 もっと、大事な事があるでしょう!!


 ——でも、


 ユリアンさんは、呪いへの対抗手段もなく王様に呪われた王子を押し付けられたって事でしょうか?


 可哀想ですわ……面白すぎるけど。


 本当に、伝説になれる様にお手伝いしてあげたくなりますわね。


 呪いとは別に、二、三度、料理の山に突っ込ませて差し上げたらいいかしら?


『本当にローランド様イケメンで、「大丈夫ですか?」なんて言っていただけて、優しくて素敵だったわ。シャンパングラスの山に突っ込んでシャンパングラスを乗せてる女なんかに、お高くとまった王族が声をかけるわけないのよ。ローランド様は、あの頭のおかしい悪役令嬢の兄のくせのまともな人で驚いたわ』


 ん? 頭のおかしな? アクヤクレージョの兄?

 何? どう言うこと?

 お兄様に私以外の妹がいるって言うの!?


 嘘!? お父様かお母様が浮気してたって言うの!?


 隠し子って……!


 ユリアナ様……この子、何者!? 何を知ってるの!?


◆◇◆


「ユリアナ様、こんなところで何していらっしゃるの?」


 私は人目につかない廊下からじっと隣国ドラグニア王国の第二王子ビクトールを見つめていたユリアナ様に声をかけた。


『げ、悪役令嬢!!』

「アナスタシア様、失礼いたしました。出て行くように言われたのに……すぐに帰ります」


「いいんですわ。ここは私の国ですから、あなたの国の王子が出て行けと言ったからって出ていく事はないのです」


 あれ? アクヤクレージョって私?


「そう言っていただけて安心しました」


 ユリアナはにっこりと微笑んだ。


『って悪役令嬢と一緒にいて安心できるかっての!? ただでさえ王子の呪いの問題があるのに、どっか行ってくんないかしら。ローランド様ならいいのに……』


 すごい、全然心の中と顔が違う。


 お兄様と話させたらどうなるのか見てみたいわ。


「あなたの国の第二王子のビクトール様が、あなたになさった事はとても失礼で許せない事だと思います。よろしければ、私とお兄様とで、夜会の後であなたをお慰めしたいわ」


「そんな、だ、大丈夫です。お気持ちだけで十分んです」


『十分じゃなーーーーイィィ!! 慰めて!! 悪役令嬢もいらないから、ローランド様だけで、私を慰めて!!

 でもどうしよう、私とローランド様と二人っきりでいるところを婚約者の方に見られたら! 「すまない、ミレーユ(仮名)。僕はこの可哀想なユリアナを慰めるうちに愛してしまったんだ、婚約破棄させてくれないか!」。そして、泣きながら去っていくミレーユ(仮名)。「順番が違ってしまったが、僕と結婚して欲しい、ユリアナ」「ああ、ミレーユ(仮名)様、ごめんなさい! はい、喜んで! ローランド様」って事になったり、きゃあああああぁぁぁ!!

 ああでも、断っちゃったわ……。もう一度、一度だけじゃなく、二、三度——いや、百回くらい誘ってくれない!? 悪役令嬢のアナスタシア様!!』


 あ、アクヤクレージョは私で確定みたいね。


 でも、何? アクヤクレージョって?


 けど、ユリアナ様はどうしてもお兄様に慰めて欲しかったみたいね。

 ミレーユ(仮名)様——誰?——の事まで傷付けてまで結婚したいなんて。

 私も一緒にはいるけど、会わせてあげましょうか。


「ユリアナ様、お断りになるなら、拉致ります? 大人しく着いてきなさい」


 二度三度、百回も誘うのは面倒です。


「……っ! は、はい、行きます!!」


『やっぱり頭がおかしいぃぃ! この悪役令嬢!! ローランド様に会えるのは嬉しいけど! この妹は嫌あああ!!!』


 希望を叶えてあげただけなのに……私ってよく誤解されるんです。


『ああ、でもダメ! ほっとくとビクトール様が死んじゃうかも! いや確実に死ぬ! この呪いって乙女ゲーム設定で、呪いにゲーム性がやたらあって、十二回の呪いを六回以上防いだら助かって、ヒロインが悪役令嬢と競い合って一番多く呪いを防いだ攻略対象と結ばれるってものなの。

 設定の説得力のためにゲーム開始時に、同じ呪いにかかって死んだ隣国の王子がいるって設定で、それがビクトール様なのよ! だから、死ぬほうが多いって言うか、死んで当然なのよ!! 個人的には死んでもいいけどね! って、そう言うわけにもいかない!!』


 ユリアナ様は、また私が分からない事を言ってる。


 でも、


「ユリアナ様、出来ないと思えば出来ないものなんですよ。だから、出来ないと思いましょう。困難に立ち向かう必要なんてありません、ほっとけばいい——むしろ、楽な方に背中を押してあげましょう」


「え……アナスタシア様……」


『意味がわからん。努力すれば何でも出来る! みたいな、一見いい話のようで真逆のこと言ってない? 背中を押すって本当に物理的に……???

 ………………。

 あ、ああー!! あまりに訳がわからなくてテンション下がったぁぁぁ!! やっぱり嫌、この悪役令嬢!!』


 案外、常識的な方だったのかもしれませんね、ユリアナ様って。


◆◇◆


「あれ、なんで、私、こんなところに寝てるの……?」


 ユリアナ様が、目を覚ますと知らない部屋に戸惑っていた。


「目が覚めましたか、やっぱり拉致してみたくて、やってみました」


『はいいぃぃ?? やってみたくてやる事かぁ!? って、ああ、ローランド様がいる!!! なんか額に手を当てて悩ましげなポーズ!! ベッドで寝ている私に誘惑されて……じゃなくて、妹のやらかしに呆れてるぅぅ!!』


 いつもの事です。


「妹が本当にすまない。今日の君は本当に大変だったのに、こんな事をしてしまって……」


「あら、ユリアナ様に頼まれたんですよ」


 お兄様がさらに呆れる。


『頼んでない! 頼んでない! けど……伝わったんだわ! 物理的に引き離されたら、もうビクトール様の事なんてどうする事も出来ないもの!!! 

 後はローランド様にプロポーズしていただくだけ!!』


「お兄様、ユリアナ様にプロポーズして!」


「この状況でなんで!?」


「……っ!」


『嘘でしょう!? 本当に心が読まれてる!? いや、それは冗談として、こんなあり得ない事をお願いして貰えるって、頭のおかしい悪役令嬢も便利かも!! 妹に欲しいィィィィ!!』


 あら、見直してもらえたみたい。


「でも、冗談ではなく、良ければ僕と婚約して欲しい。この妹と、こんなに冷静に話せる人は少ないんだ」


 お兄様に、ユリアナ様の心の声を聞かせてあげたいわ。


「……」


 ええ? ユリアナ様、悩むの、心の中ではあんなお兄様お兄様って言ってるのに!?


『ああ、どうしよう!! 受けたい! 受けたいけど、私は婚約破棄されたばかりだし……!

 ああ、二度三度、千回くらいプロポーズされて、断れなくしてくれたら……』


 ユリアナ様がチラッと私を見る。


 面倒臭いからユリアナ様とお兄様をこの部屋に閉じ込めて、既成事実を作るまで出られないようにしようと思いましたが……期待されるとやる気が…………やりましょうか!


 私は部屋を出て、外から鍵をかけた。


「ユリアナ様を傷ものにしたら出してあげますわ、お兄様」


「ええ!? アナスタシア!? って言い方!?」


「……」

『嘘!? 伝わったの!? ありがとう、悪役令嬢様ぁぁぁ!!!』


 アクヤクレージョってなんだか大変みたいね。


 隣国のビクトール様が呪いで亡くなってからが本番らしい言い方でしたけど……まあ、ユリアナお義姉様に教えてもらいましょう。



 ローランドお兄様と結ばれた、ユリアナ様はとても幸せそうです。


 妹も溺愛するお兄様は、奥方ならもっと溺愛するでしょうし。


 私も、おもしれー女のユリアナ様を溺愛してますから、遊びに行くけど、警戒されています。


 またその心の声も面白くて、拾って良かったわ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。