迷子
迷子
この地域の重たい冬がようやく明け、春が来たのである。
代官は、気が緩んでいた。
娘の桜は、期待に溢れていた。
乳母を伴い、散歩に出た。
今で言うところの国道18号線を軽井沢の方向へ進んでいた。
この地には、不思議な地形があった。
雪解けで露出する縞模様の地形が現れる。他の地では見られないその様子に、桜は興奮した。
何だこの縞模様は、桜の疑問は単純であった。
そこに崩れた道が森に向かって伸びていた。乳母は、地形に興味を持つ桜の事には気が付かず、目を離していた。
桜は、乳母に声も掛けず、スーッとその路地を進んでいった。
その時、山彦も、この春の息吹、森の呼吸に縄文の森から外れた地であったが、歩みを進めていた。
本当に偶然、桜と山彦は、ぶつかり合った。
桜は、見知らぬ体格の良いこの男は、地元の者と単純に切り出した。
「あの様模様の山は何?」
山彦には、昔からある当たり前の場所であったので、何故と問われて答えることが出来なかった。
むしろこの見知らぬ娘は、道に迷ってるんだなと感じて答えた。
「迷ったのか、あれは普通の土だ。」
桜は、自分が迷子になってることに気が付き、不安になったが、この先の森が目の前に広がってることに興味を捨てられず問いかけた。
「この森は入ってはいけない場所なのですか?」
「いや、そんな事はない。我々の暮らす良い森だよ。ついて来な。」
山彦は、この娘は新しく来た娘なんだな、興味があるのならと感じ少し案内することを良しと考えた。
「森は素直に見ていれば、素直に答えてくれる。大丈夫だよ」
素直に答えてくれる。嬉しくなって、山彦に付いていった。
森に入ると木漏れ日が顔に当たり、気持ちがよい。興味にあった森に入れた事に興奮した。
「あそこの穴から出てきたのは、キツネの子供だ。春になって生まれてきたものだよ」
よく見ると遠くの草が生えてる部分に小さなキツネの子供がポコポコっと外に出て、歩きもあやふやな感じで、動いていた。
「可愛い、、、」
桜の感想を見て、素直な子だなと思った。
歩いていると、山奥の遠くに熊の穴を見つけた。
「あっちは、熊様の穴だ。」
え、熊、見たことがない。桜が気が付き、見てるとブァッと穴の中から大きな熊が出てきた。
「大きい」
山彦は、桜を守るように
「危ない、これ以上は前には行けない。」
桜が出ないように身構えたが、空の変化に気が付いた。
西の空が暗くなってきている。
これは、雨が降る。山彦は急いでこの娘を返すことにした。
「君、こっちだ」
慌てたような声に桜は驚き、素直に付いていった。
乳母は、困っていた。
仕方なく、屋敷に戻り代官に訴えていた。
代官は思わず外に出たが、どうしようない。オロオロするばかりであった。
そこに桜が現れた。
桜を見つけて代官がホッとしていると後ろに、見知らぬ男が立っていた。
暫くの沈黙が続いた。
代官は気がついた。
あ、この男は縄文の森の者だな。
娘が森の方に行ってしまった。
それを助けてくれたんだ。そう理解した。
山彦が答えた。
「この娘は間違って森に入っていた。だから連れてきた。」
代官は、山彦に何も言えない。言えなかった。
浅間山まで黒い雲が広がり雨が降ってきた。




