代官が来た
代官が来た
佐久平は、縄文の森から、よく見渡せた。
佐久平では米作りの他に、馬が駆け回るようになっていた。馬は、農耕だけでなく、兵が乗り戦いに使われるからであった。
そして、新たに整備された道の脇に大きな建物が作られようとしていた。
農民の多くが、その建物を作るのに携わっていた。
縄文の森は、平地からは見えない。
ただ森が広がっていただけであった。
森の入り口周辺は、狩りで、たまに人が来る程度で、山の中には関心が無かった。
森の中で、見張り役の者と山彦が話していた。
「大きな建物が造られると思う。何か不審な感じだ。」
「兵も増えてきているようだ。」
馬が平地を走り回り、兵たちが増えている。平地に新しい何かが生まれているのだろう。
近畿圏の力がまとまることにより、この地にまで、その力が及び始めているのだろう。
かつて、広がっていた米作の地としての平和な佐久平にも、新たな支配が迫っているようであった。
平地では、民が使われ、働かせられるように見えた。
それから暫く、見張りを続けていたが、縄文の森から、数人、建物の構築の手伝いに入るものがいた。
建物の建設は、大がかりで、広く佐久平から、集められているようで、中に入っても森のものであることを咎められることもなく、入れた。
支配で動いている兵にとって森のものも佐久平のものもなかった。
土地をならし、湧水の出る場所をうまく使って、大きな建物が少しづつ出来上がっていた。
農民はまさにやらされていた。
疲れた顔を隠しもせずに、黙々と働いていた。
縄文の森からは、山彦が、手伝いとして工事に入り込んでいた。
山彦は、仲間と観察を続けていた。
春先から続いた建築は夏ごろにようやく姿が固まってきた。
兵たちはこの建物に住むわけじゃないらしい、彼らは周りに建てられた小屋で寝起きをしていた。
秋、収穫の時だ。
工事は終わり、建物が完成した。
農民たちは、収穫のために、急いで集落へ帰って行った。
カパ、カパ、カパ
まもなく、馬の行列が来た。
2列になって進んできた。
続いて、人が先頭で、車輪の付いた台車が進んでくる。後ろに二人、押している。
それが数代続いてきた。
代官の登場だろう。四角い箱のようなものの中味は見えない。
屋敷に近づいて来ると隠れるところがない。
山彦たちは、仕方なく、屋敷から離れ、山に戻っていった。
「ありゃ、代官だろう。どうなるんだ。」
山に入り、姿を眩ませると、山彦が呟いた。
秋の夕焼けはやけに赤く、佐久平を染めていた。




