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01/28 データ・プライバシーの日 | 情報開示のカード

既に四人が死んでしまった。

次こそ私の番であろうか。


雑居区画の片隅、光度を絞ったライトが頼りなく照らす密室の中で、残り五名の生存者が椅子に腰掛けて思考を続けている。


二日目に冷凍人間の正体を突き止め、宇宙空間に放り出した事で状況は大きく動いた。

残っているのは乗組員が三人、AIが一人。そして冷凍人間が、あと一人。

あと一人を吊し上げれば人間の勝利だ。

だが、目の前に座る『自称』AIが狂人でないことを、未だ証明できていないのだ。


開示された情報とそれぞれの証言を頼りに、乗組員は冷凍人間を特定し、始末しなければならない……。


という事で、今日はデータ・プライバシーの日。

ゲームフリークの私たちは、久しぶりに集まって頭脳ゲームに興じていた。


ここにいるみんながみんな、何事か呻きながら胃を苦しめていた。それでいて、本気で楽しんでいるのも伝わってくる。

初日の発言ターンで二人同時にAIカミングアウトした時は、思わず全員ロールプレイを忘れて吹き出してしまった。

いけないいけない。私はエリーン。


初日に処刑された『AI』ヒースは、ダンの情報開示を本物と判定した。

しかし二日目夜に殺されたダンが乗組員であったことが判明し、場はいよいよ混乱を極めている。


残った『AI』コトノハが嘘をついた?

それとも、やはりヒースが狂人で、場をかき乱すためのブラフを?

狂人は乗組員と区別が出来ない。

ならば、そもそもダンこそが狂人である可能性も排除できないのだ。


次の一手は誰が仕掛けるのか。

三日目が始まった。


「ダンが乗組員だったってことは、コトノハが冷凍人間か狂人で決まりだろ?」

発言フェーズ、勇んで切り出したのはホーラだった。


「仮に狂人でも、処刑すれば四日目には村人二人に冷凍人間一人。乗組員に損はない」

「待ってください、ダンが狂人だった可能性だってあります」コトノハが『AI』らしく、丁寧な口調で反論する。


「そのとおりだよ。ホーラ、何でそんなに焦ってるの?」これは私。

「だってお前ら、今日は俺を処刑する気満々じゃないか」

「コトノハ、君が最初に判定したのは僕の開示情報だったね?判定の結果は」

「本当、です。チャンイーは乗組員です」

コトノハの回答に、チャンイーは前髪をかきあげ、大仰なお辞儀を返す。一体どういうキャラ設定なんだろう。


「二日目のフェッテの情報も正しかった。あとこの場で私に判定されていないのは、ホーラ、エリーン、ロン」

「俺は判定してもらって構わないぜ」と胸を張るロン。

「ただ、五日目まで伸びる可能性を考慮すると、怪しいダンを真っ先に鑑定しとくべきじゃないのか」

「私も同意見。もちろん、私を鑑定してもらってもいいけど」私もロンに同調する。


「俺だって構わないさ!」

ホーラが激情に押されて立ち上がる。おお!いい演技。


「……だが待ってくれ、確かにダンが狂人の可能性は捨て切れないが、ダンが本当に乗組員だった可能性も同じことだろ?」

両腕を大きく開き、興奮を抑えるような低いトーンで説得を試みるホーラ。いいぞいいぞー。


「むしろ、エリーンが狂人じゃないのか?最初にコトノハに同調したのは君だろう」

うわっ!いきなりお鉢が回ってきて私は焦った。が、私は冷静なエリーン。

「それをいうなら、情報も足りないなかコトノハを処刑する方に誘導を始めたのは、ホーラ。貴方よ」

私は淡々と事実を述べた。決まった。完璧に決まった。


小さくうめいて、何かを返そうとするホーラ。だが彼の喉はどんな弁解の声も振るわせてはくれないのだ。


「そろそろ情報開示のターンだ」

チャンイーが声を上げた。


「宇宙の孤独の中、我々が生き残るためには持てる情報を全て開示しなければならない。さあみんな、情報開示のカードを切ろう」


「私は医療品の在庫から鎮痛剤10包を差し出すわ」私。

「俺は宇宙船外作業免許と、今日の労働を」ロン。

「昨日と同じだ。食糧庫からパスタを5キロ」ホーラ。

「今朝、エマージェンシーキットが大量に発見された。それが僕のカードだよ」王子様みたいになってきてるチャンイー。


各々の情報カードがテーブルの上に置かれた。伏せられているためカードの内容はわからない。

「情報は開示されたね。ならAI。誰か一人の情報を判定してくれ」


「了解しました」とコトノハ。

全員が目を閉じ、AIがカードを一枚だけめくる。

「ロンの情報を確認しました。ロンの情報は本物でした」

「俺!?何で俺?」

「トークの最後の方、自分への追求を逸らしてるように感じたので……」


なるほど。


「まあいいか。よし、それではみんな、決断の時だ!」

ロンは軽く流して手のひらを二回大きく叩いた。

「地球を遠く離れ、孤独な旅を強いられる私たちは家族だ。だが、ここに許しがたい存在がある。少ない物資を食い潰す、冷凍人間は誰か?」


さあ、投票の時間だ。

発言と情報開示の流れからいって、処刑されるのはホーラで決まりだろう。


ロンを疑ったコトノハのカンには驚かされたが、うまくロンがかわしてくれて助かった。

さあ、これで我らの勝利だ。乗組員は四日目の朝を迎えられない。


ククククク、実に滑稽だ。

お前たちの物資は私だけのものだ。

冷凍人間の、私のものだ。

ククククク。

なんちゃって。


◾️


人類史に刻まれた宇宙の旅は、全てが順風満帆とはいかなかった。

船体の故障、疫病の蔓延。限られた人間、限られた資源で生き延びなければならなかった時代もあったのだ。


食料、水、医療品、技能。

誰が何を持っているかを把握しなければ全員の生命維持に支障をきたすその状況で、乗組員同士の情報の開示は義務となった。プライバシーなど考慮する余裕はなかった。


ある日、一人の男が食料を隠していることが発覚し、裁判にかけられた。

投票で排除が決まり、男は生身で宇宙に放り出された。


それから毎週、全員が手持ちの物資を報告するようになった。嘘をつく者は排除される。


冷凍睡眠から目覚めたばかりの者たちは悲惨であった。地球から持ち出せたものはなく、差し出せるものはおろか、自分のための食料すら用意できなかった。排除された。

何人もが、宇宙に放り出された。


やがてコロニーが安定し、資源も安定した。

制度は廃止された。

だが人類は、けして忘れてはならない。


かつてプライバシーが蹂躙された、あの日々の地獄のことを。


一月二十八日はデータ・プライバシーの日。


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