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01/26 文化財防火デー | 私の後ろに散らばった灰たち

隊員がサーバールームの暗号キーの解読を進めている。

殺風景な通路が、硝煙と死の匂いで歪に彩られていた。

ようやく、ようやく敵の喉元に食らいついた。


ここまで来るのに私たちはたくさんのものを焼いた。


図書館を焼いた。何百万冊もの本が灰になった。

博物館を焼いた。人類の文化が煙になった。

仲間の信頼を焼いた。誰も信頼できなくなっていった。

敵を焼いた。命が消えていく臭いがした。


本当にたくさんのものを焼いた。


思えば最初に焼いたのは、失業し、食えなくなって命を絶った友人の遺体だ。

友人の灰と、泣き崩れる友人の家族の前で、私は誓った。

一矢報いる。この先何を焼いてでも。


世界シミュレーターAI『ティエンイェン』が誕生して既に十年。

世界中の生活インフラはAIによって管理されている。


AIは国を豊かにした、と政府は言った。

災害の被害は減り、物流は最適化され、無駄はなくなった。


そのなくなった無駄の中に、私たちがいた。


私たちの国は資源がない。

食料も、エネルギーも、その大部分を輸入に頼っていた。


ティエンイェンの運用構想当初、期待された世界規模の生活インフラ最適化は、結局実現しなかった。

国家、宗教、利権。

様々な『事情』があったらしい。


私たちには関係のない事情、だ。


代わりに、いくつかの国家間経済連合が生まれた。

AIは連合全体を最適化した。


生産性の高い国に工場を集中させた。

生産性の低い国は、市場にした。


私たちの国は市場になった。


国内の産業は切り捨てられ、輸入だけが増えた。


実に効率的だ。

連合全体では効率的だった。


しかしその結果、私たちの仕事は消えた。


私たちは無駄なのか?

この世から消えるべきなのか?


AIは道具だ。そんなことはわかっている。

この施設を焼いても、政府はまた別のAIを採用し、同じように無駄を排除するのだろう。私たちが焼くべき相手はそれを使うやつらだ。


そんなことはわかっているのに。


だが、もはや眼前にそれがある。

私たちを排除した「効率」が。

私たちを否定した「最適化」が。

私たちを見下ろしている。


もう理屈ではない。

今、ここで事を成せなければ、私の人生が無意味になる。


セキュリティロックの解除に成功した。

重く分厚い扉が開いていく。


私は私の周りの小さな営みを守るために、たくさんのものを犠牲にした。

私の文化を守るために、ほかの文化を焼いたのだ。ああ、私は何をしているのか。


思えば、AIが作る未来もまた、文化の一部だ。

変容しても、継承されていく。

これからの人類のかけがえのない財産のはずなのだ。


また私は、この世界から文化の萌芽を摘むのか。

本当に何をしているのだろう。

しかしもう止まることはできない。


でなければ、私の後ろに散らばった灰たちがあまりにも無意味だ。

だれにも無駄だなんて言わせない。だから。


私はこれから、また一つ文化を焼く。


一月二十六日は、文化財防火デー。

文化を守る日だというのに。

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