表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

第一章 血を飲むたび、私は壊れていく

※ダークファンタジー要素・吸血表現があります。

※心理描写と関係性を重視した、ゆっくり進む物語です。

苦しみを抱えた吸血鬼が、夜の中で出会う“灯”の物語をお楽しみください。


夜ごと、同じことを繰り返している。


血を求め、血を飲み、そして苦しむ。

それが、私の生だった。


生きるために、血を奪わなければならない。

だが血を喉へ流し込むたび、胸の奥に焼けた鉄を突き立てられるような痛みが走る。肺が悲鳴を上げ、心臓は砕ける寸前まで締めつけられる。


何度繰り返しても、慣れることはない。


私は吸血鬼だ。

それも、呪われた吸血鬼。


血を糧にしながら、血に殺されかける存在。

生きるための行為が、同時に私を壊していく。


(……これで終わっても、誰も困らない)


夜の路地で。

あるいは、森の奥で。


私は何度も膝をついた。

血を飲み終えた直後、力が抜け、視界が暗くなり、そのまま地面に崩れ落ちる。そのたび、同じ考えが浮かぶ。


人間は私を恐れ、逃げる。

同族である吸血鬼でさえ、私を忌み嫌った。


「呪われ者」

「血も扱えない失敗作」


そう言われることにも、もう慣れていた。


かつて私は、人間を助けようとしたことがある。

血を吸わずに済むよう、怪我を治そうと手を伸ばした。


返ってきたのは、怯えた悲鳴と、石のような拒絶だった。


――化け物。


その言葉を最後に、私は人に近づくのをやめた。


夜を彷徨い、最低限の血だけを奪い、痛みに耐え、朝を迎える。

意味のない延命。終わりを先延ばしにするだけの時間。


夜が明けるたび、私は思っていた。


(次の夜が、来なくてもいい)


それでも、完全に終わりを選ぶ勇気はなかった。

ただ、いつ終わってもいいと思いながら、夜を渡っていただけだ。


夜は、私にとって唯一の居場所だ。


太陽の下では皮膚が焼け、骨がきしむ。

だが闇の中にいるかぎり、私は世界のどこにも属さない影でいられる。


それでも私は、生きてしまっていた。


血を飲まなければ、確実に死ぬ。

だが飲めば、激痛にのたうち回りながら、また次の夜まで生き延びる。


その選択を、私は何百回と繰り返してきた。


「もういい」と思いながら。

「これで最後だ」と思いながら。


それでも、喉の渇きに抗えず、血に手を伸ばす。

そのたび、そんな自分自身がひどく醜く思えた。


死にたいわけじゃない。

ただ、終わってほしいだけだ。


夜明け前、私はいつも同じ場所で立ち止まる。

建物の影、あるいは木々の根元。

朝の気配が近づくと、背中に冷たい汗が浮かび、無意識に身を縮めていた。


太陽が昇るまで、あと少し。

それまで、この身体がもってくれればいい。


石畳に触れた指先は、夜露で冷たく濡れている。

その感触だけが、今の私に「生きている」と教えてくれた。


馬鹿げている、と自分でも思う。

生きる理由もないのに、生きている証拠だけを確かめているのだから。


━━もしも。


ほんの一瞬だけ、そんな考えがよぎる。


もしも、誰かが。

この闇の中で、私に声をかけたなら。


すぐに、その思考を振り払った。

そんなことが起こるはずがない。起こっていいはずもない。


私は、吸血鬼だ。

呪われた存在で、人に近づいてはいけない影だ。


そう言い聞かせるように、私は夜に身を沈める。


夜は静かだった。

風の音も、遠くの獣の気配もない、ひどく均一な闇。


私はいつものように、朝をやり過ごすための場所を探していた。

どこでもいい。ただ、光さえ届かなければ。


そのとき――、わずかな違和感が、背中を撫でた。


音はない。

匂いもない。

それなのに、胸の奥がざわついた。


(……気のせいだ)


そう思おうとした。

何度も、何度も、夜の中で同じ錯覚を経験してきたからだ。


だが、足が止まった。


喉の渇きとも、痛みとも違う。

もっと、奇妙な感覚。


まるで、

この闇の中で、私を見ている“何か”がいるような。


自嘲が浮かぶ。

孤独に慣れすぎたせいで、幻覚でも見始めたのだろう。


私は吸血鬼だ。

呪われた存在で、誰かに見つけられる理由などない。


そう言い聞かせ、一歩、踏み出す。


それでも。

背後の闇が、わずかに濃くなった気がした。


振り返る勇気は、なかった。


こんな命など、いずれ尽きるのが必然だ。


いつ終わってもいい。

そう、本気で思っていた。


━━あの夜までは。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ