表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/12

第4話:初めての約束

冬の放課後、雪がちらつき始めた。ピアノ室の窓越しに見える校庭は、白い世界に染まりつつある。外の冷気が窓を伝い、わずかに室内に入り込む。指先に触れる空気が冷たく、温もりの感覚がいっそう強くなる。


僕はいつものようにピアノの前に座り、鍵盤に手を置いた。

「今日も、一緒に曲を作ろう」

小さな声をかけると、ミナは微かに笑った。目の奥に輝きが宿り、わずかに手を振って僕に答える。言葉はなくても、心はすぐに通じた。


僕たちは並んで座り、曲を奏で始める。右手でトリルを刻み、左手で低音を優しく支える。ペダルの踏み具合で残響を調整すると、音が部屋に柔らかく広がる。

一音一音に、昨日の笑いも、迷いも、温かさもすべてを込めて弾く。


突然、ミナがノートに何かを書き始めた。

彼女の筆跡は小さく、丁寧で、ページいっぱいに文字が並ぶ。僕は覗き込むと、そこにはこう書かれていた。


> 「大人になっても、ずっと一緒に曲を作ろう」




目の前の少女が、言葉ではなく文字で僕に約束を届ける。胸の奥がぎゅっと締め付けられ、自然と涙が溢れそうになる。

僕は彼女の手を握り返した。冷たさの中にある温もりが、音に溶け込む。

「うん、約束だ」

小さな声で返す。ミナはそれを目で受け取り、笑みが少しだけ大きくなる。


外の雪はまだ小さな粒で舞い落ち、窓に当たる音が小さく響く。部屋の中の温かさと外の冷たさが、指先に交差する感覚として伝わる。

僕は思った――

この瞬間のすべてが、これからの二人の世界の基盤になるのだ、と。


曲を続けながら、僕は彼女の指先を見つめる。音を紡ぐたびに、二人の心が少しずつ重なり、手の温もりと息遣いが、旋律として空気に刻まれる。

窓の外の雪が光を反射し、部屋の奥まで淡く照らす。夕日の余韻が鍵盤に映り、音が光と交わる。


「この曲、ずっと覚えていたい」

僕は心の中でつぶやく。

ミナの瞳が答える――

「私も」


その日、僕たちは初めて「約束」という形で、未来を指先に刻み込んだ。

雪の舞う冬の午後、鍵盤に残る温もりと、互いの心の鼓動。それは言葉では言い表せない、確かな絆の証だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ