第15話「風に立つ王」
三日目の朝、峠の稜線に白く細い霧が掛かった。夜の残り火は石囲いの底でくすぶり、赤子の息のように弱い焔がときどき吸っては吐く。鳥は鳴かない。耳を澄ませば、谷の底で水が石に触れる音が、底の見えない井戸のように硬く、冷たく響くばかりだ。
紅月軍は夜半、焚き火を倍にして見せつけた。まるで要らぬ勇気を薪で買っているかのような明滅だった。だが夜明けとともに火は消え、薄く伸ばした前衛の裾が霧に混じって見え隠れする。峠の向こう、灰の渡しの方角に人影が走る。別働を匂わせる、分かりやすい牽制。受けて立つべき挑発に、白風の列は並びを変えない。旗竿に結んだ小さな白布が風を探るように鳴り、誰もがその鳴り方だけで、今いちど体の内側を整える。
楓麟は風旗を見上げ、短く言った。
「南寄り。今日は弓が伸びる」
弓兵の列がひとつ、またひとつ前へ詰める。矢筒は足元に置け。腰の重心は落としすぎるな。楓麟の指示はいつもと同じだが、その「いつも」が兵の筋肉に刻まれてからまだ日が浅いことを、誰も忘れてはいない。斬る、叩く、叫ぶ、それより先に、立つ・置く・詰める――動作の順番を揃えるのが、白風の戦いの「書き取り」だった。
午前、押しは弱い。押すでもなく、退くでもなく、時間だけが削られていく。霧は陽に透け、面の内側を濡らす汗が肌の上で冷えたり温まったりを繰り返す。弓の弦は鳴る。鳴っては止む。楓麟は一礼の角度で頷くだけで、余計な声を出さない。藍珠は馬上にいながら足裏の感覚で地を読むようで、馬の鼻息の湿りさえ数えるかのように静かだった。
昼前、薄紅平原の端から伝令が駆けてくる。膝に土を抱えたまま転がるように跪き、短く告げる。
「敵偵察、疲労甚だし」
伝令の肩は上下しているが声は乱れない。その息の端で、楓麟の目だけが少しだけ細くなる。彼はそこで初めて「押し返す」手を選んだ。峠の下り坂の途中に置いた二列の予備兵を前進させ、敵の薄い前衛に圧をかける。ただし、追撃禁止の札が同時に立った。札は白木に墨の二文字。〈追うな〉。札が立てば、それは旗以上の命令になる。勝っても追わない。退けば下がる。その反復が、兵の骨に「崩れない癖」を植える根になる――楓麟はそう信じ、兵はまだその信を半分しか知らない。
短い凪が訪れた。風が休むかのように旗が垂れ、音の隙間に遠い牛鈴の澄んだ音がひとつだけ落ちる。そのときだった。城下から一団の荷車が細い道を上ってきた。重い車輪が石を乗り越えるたび、軋みが谷に二度響く。荷には粟の袋、乾肉、薬草、包帯、そして粗末な木製の担架。担架の角はいくらか丸く、手で削ったささくれを火で炙って潰した跡がある。
荷車を押しているのは、都の労役に名を連ねた市井の者たちだった。女の腕、老人の肩、少年の膝。井戸の村の少年の姿が混じっている。彼は遥を見つけると嬉しそうに片手を挙げ、すぐに担架の紐を握り直す。紐は粗い。手のひらに食い込んだ跡が赤く残り、それでも彼は指を丁寧にかけ直し、担ぎ位置を一寸ずらす。
遥は彼らの前に出て制止しようとした。だが少年の方が先に言う。
「王様、僕らにもできることがあるでしょう。持ってきた」
言葉は震えていない。息の継ぎ方がいい。藍珠が短く頷き、補給線の整理を指示する。野戦の配給は乱れがちだ。彼女は乱れを嫌う。嫌うが、嫌い方は静かだ。楓麟は書記を呼んだ。荷を届けた者の名を控え、配給の順番に加えよ。名を記す場所は板の帳面。墨は濃い目。名が滲めば、次に読む誰かが困るからだ。
名は誰かの居場所だ。板には、短い名と長い名が、書記の筆で同じ大きさに並ぶ。手習いのように拙い字もある。その拙さが板の木目に救われ、木目は拙さを笑わず受け取った。名が刻まれるたび、荷を下ろす背の呼吸が少し落ち着く。兵たちは荷車を受け取りながら、「王の命で動いた都の者」という意識を静かに共有した。白風の戦は、王宮の壁の内だけの戦ではない――その実感が列の隅々まで沁みた。誰かの膝が少し鳴った。誰かの喉が小さく鳴った。鳴ったことを責めずに、次の者が担ぐ。
風は午後に入ると、向きを変えずに強さだけを僅かに増した。紅月軍は夕刻前、最終の押しをかけてきた。鼓笛が高鳴り、盾の列が再び前進する。楯の鉄縁が日を弾き、眩しさが矢を弱らせる。白風側の矢は底をつきかけ、投石も重くなってきた。投げる肩が悲鳴を忘れるほど疲れている。楓麟は短く言った。
「これ以上は持たぬ」
ここで退けば追われる。ここで出れば折れる。膠着を断ち切るのは「言葉」か「旗」か。旗は命令のかたちだ。言葉は恐れの形だ。どちらも重い。
遥は指揮台の階段を降りた。前線と後衛の境に立つ。甲冑ではない、泥のついた外套のまま。喉は渇いている。舌の根が塩辛い。けれど、声は出る。出したいのではなく、出すしかない。
「――聞け」
最初は近くの兵だけが振り向いた。振り向く首の骨が、汗で滑って光る。遥は続けた。
「俺は王だ。けど、怖い。おまえらと同じように、怖い。昨日、仲間を失って、今でも手が震える。……俺は、逃げる理由をいくらでも言える。異邦だから、若いから、帰りたいから。けど、ここに立つ」
言葉は風に割られる。割られて、届く。割れてなお形を保つ言葉は、たぶん少しだけ正直だ。
兵たちの動きが止まる。止まるというより、続ける前に一拍遅らせる。楓麟は何も言わない。藍珠も何も言わない。言わないことが、この国でいちばん重い同意であることを、遥は学び始めていた。
「俺の命令で人が死んだ。俺の命令で飯が配られた。なら、これからの命令で、俺は守る。峠を捨てない。渡しを捨てない。都を捨てない。……おまえらも、互いを捨てるな。倒れても、名を呼べ。名は、俺が記す」
名は印で、呼べばそこに灯が点る。呼ばれた者は、たとえ応えられなくても、その灯の方角を覚えている。
沈黙のあと、どこからともなく槍の石突が地を一度だけ打つ音が響いた。土と石の間に短い痛みが走る音。それに続いて別の場所で一度。また別の場所で一度。不揃いで、拙い。統制された鼓ではない。だが、確かに返答だった。返事の拍はばらばらで、ばらばらのまま重なり合った。人は同じ歩幅でなくても、同じ場所へ行ける――拍が教えるのは、そんな当たり前だった。
楓麟が風旗を振る。旗の白は霧の白と違い、濡れても淡くならない白だ。
「前へ半歩」
全列が一斉に、半歩だけ前へ。半歩は大股より難しい。体の奥でため込んだ恐れを、指の先から少しだけ溶かす加減が要る。敵は期待した崩れを得られず、むしろ圧に押される。藍珠が側面から突き、敵の楔を砕く。山風が背から押し、紅月の旗が揺れた。わずかな前進、わずかな退き。その往復がやがて敵の角笛を三度鳴らさせる。退却の合図。笛の音は、負けを告げるにはあまりに澄んでいた。
追わない。白風は追わない。楓麟の手は最後まで下がったままだ。追えば勝ち癖がつく。勝ち癖はいつか足元を掬う――そのことを、この峠の土は知っている。代わりに、峠の上で小さな旗が上がる。白風の白。白は終わりではなく、次の行の余白だ。
戦はひとまず終わった。勝利ではない。引き分けに近い撤退。だが、峠は守られ、渡しは立ち、都は無事だ。遥は最前線の泥の上に立ち尽くし、目を閉じた。瞼の裏に、さっきの石突の音が反芻される。耳に入るのは、負傷者の呻き、荷車の軋み、遠い犬の鳴き声。そして、兵たちが互いの名を確かめ合う低い声。名が呼ばれるたび、誰かの肩の高さが戻る。戻らない肩もある。戻らない肩の名を、板の帳面に、同じ濃さの墨で記す。濃さを変えないことが、悼みの最初の形だ。
井戸の村の少年は担架を降ろす場所を探していた。彼の汗は塩の跡を頬に描き、けれど目は曇らない。遥は少年の傍らに膝をついた。
「重かったろう」
「重かった。でも、僕の背中はまだ余ってます」
余りは、次の誰かに分けられる余白だ。遥は小さく笑った。笑いは、王の顔の上でまだ不器用だ。だが、不器用な笑いは、嘘が乗る場所を与えない。
「名を」
少年は名を言った。短く、よく通る名。書記が板にその名を記す。名の右に小さな点を打つ。運び手。点の数が、この日の都の歩幅だ。
夕暮れが谷に下りる頃、藍珠は傷口に当てる布の束を抱え、ひとつひとつ結び目を確かめていた。結び目はほどける。ほどけるが、結び直せばいい。結び直す指に力が入らなくなったら、別の指に渡せばいい。藍珠は、そういうふうにものを考える。剣の鍔に指をかけたまま、彼女は遥に一度だけ視線を寄越した。そこに労いはない。ないが、認めるということは、言葉から抜き出せば少ないほど強くなる。
夜、都から来た荷車の列が帰る準備を始めた。空は黒に落ち、星がひとつだけ遅れて出た。遥は振り返り、列に向かって短く頭を下げる。
「ありがとう」
誰に向けた言葉か判然としない。だからこそ、届いた。列の中で何人かが泣き、何人かが笑い、何人かがただ頷いた。泣き笑い頷く、それぞれの顔の動きが、同じ夜風に触れて同じ温度で冷える。夜風は誰のものでもなく、だからこそ誰の頬にも公平だ。
その夜、城の内側は妙に静かだった。静けさは勝利から来たのではない。敗北でもない。守られた地面が、自分の重さを思い出しているときの静けさだ。廊の灯は少し間をあけて置かれ、灯の間の暗がりが歩幅を整える。楓麟は報告を受ける合間に、風旗の布を干した。濡れた白は重く、手の中で重さを言葉にすることはできない。ただ、重い。
王宮のバルコニー。夜風が旗を鳴らす。旗は布よりも竿の鳴りで音を立てる。木が鳴る音は、水が鳴る音に似ている。楓麟が言った。
「紅月は退いた。だが、冬は近い。補給、治療、内通の芽の摘み取り――次は内側の戦だ」
藍珠が剣の鍔に指をかけ、「王、剣はいつでも」と短く告げる。剣は手段で、言葉は理由だ。手段が先に立つとき、理由は後ろを歩く。その順番が入れ替わらぬように、彼女は鍔にしか指をかけない。
遥は深く息を吸い、風に顔を上げた。風は彼の頬の粗い傷をなぞる。傷は日に焼け、薄皮が一部剥けている。痛む。痛みは生の一部だ。だから、王はそれを嫌い切らない。
「俺は、この国を見捨てない」
言葉は夜気に溶け、都の屋根の上で小さくゆらめく灯に触れた。灯は擬えるならば名に似て、名は擬えるならば灯に似ていた。呼べば応える、応えられなくても呼び返してくる、その往復の細い道筋が、王の胸の内でまっすぐに伸びる。
バルコニーの下、文吏の一団が帳面を抱えて待っていた。戦功の記録ではない。負傷者の名、運ばれた荷の数、配られた粟の重量、使われた薬草の束の数。数は冷酷だが、冷酷さの中に救いがある。数え間違いを許さないという救いだ。数を間違えないことは、生き残った者を甘やかさないことと同義だ。遥は帳面を受け取り、ひとつひとつの行に目を通す。目で数え、唇の裏で小さく繰り返す。名は声に出さずとも、唇の裏で音になれば、それは一度呼んだも同じだ。
「王」
楓麟が呼ぶ。呼び方は淡々としている。淡々とした中に、少しだけ硬さがある。硬さは、これから告げることが柔らかくない証だ。
「灰の渡しに、内通の疑いがある」
遥は帳面から目を上げた。灰の渡し。今日、紅月が素振りを見せた場所。そこに、白風の内側から手を伸ばした者がいる。楓麟は続ける。
「まだ芽だ。芽のうちに摘める」
「芽を見極める目が、俺たちにあるか」
「芽を芽と呼べるうちに、手をかけることができるか、だ」
藍珠がわずかに顎を上げた。剣はいつでも、という言葉は、斬るためにだけあるのではない。抜かないためにこそ、剣はそこにある。剣があるから、言葉が嘘にならずに済む。
遥は帳面を閉じた。板の帳面の木目が、昼間記した名の列を、今夜は沈黙で守っている。彼はバルコニーの縁に両手を掛け、都の黒い屋根の海を見た。海の上に浮かぶ灯の点は、星より低い。低い星は消えやすい。消えやすいものを守るには、消えやすいという事実から目を逸らさないことだ。逸らさないために、王は恐怖を抱いたまま立つ。
翌未明、風は少し北へ回り、峠の霧は薄靄に変わった。薄靄は形を持たず、誰の肩にも均等に触れる。兵站係の老女が米の入った袋を撫でながら、米の音を確かめる。乾いた音はまだ続く。続くが、いつか止む。止む前に、道を整える必要がある。道は踏むほど強くなる。踏み方を選べば、潰れずに済む。楓麟は、峠道のうち最も脆い場所に、石を置くように兵を立たせた。兵は石にならないが、石の役を短い間だけ演じることはできる。
井戸の村の少年は、城下に戻る前に、もう一度峠の端まで走った。見送りの礼も告げず、ただ、見ておきたいものがあったのだ。半歩分の踏み跡。兵の人数分、同じ深さで並んだ半歩。雨が降れば流れる。風が吹けば消える。それでも、今ここにある。少年はその浅い凹みのひとつに自分の足を重ねた。合った。小さな足でも、半歩は半歩のままだ。
「おい」
背後で誰かが呼んだ。振り向くと、藍珠がいた。彼女は少年の足元を見、凹みを見、それから峠の向こうの空を見た。
「その足で、次はもっと軽いものを運べ」
「もっと軽い?」
「人の痛みの重さに比べれば、ほとんどのものは軽い」
少年は頷いた。頷きの角度はぎこちないが、視線はぶれない。ぶれない視線は、軽い荷を遠くまで運ぶ。
王の書記は、板の帳面の最後の行に、小さな余白を残した。余白は「未記」のためにあるのではない。明日記す名のためにある。余白がある限り、戦は終わらない。終わらないからこそ、人は眠る。眠って、起きて、同じ余白に新しい名を書く。その反復が、国という長い呼吸の、細い気道を保つ。
夜更け、遥はひとり、王宮の回廊を歩いた。石の床は冷たい。冷たさを足裏に受け取ることは、現実を疑わない手段のひとつだ。目を閉じると、昼間の声が戻る。〈王様、僕らにもできることがある〉。〈倒れても、名を呼べ〉。自分の声と他人の声が混じり合い、どちらの声か分からなくなる瞬間がある。分からなくなるのは、悪いことではない。王の声が王のものだけである必要は、ないのだ。国の声は混声でいい。混ざり具合が不協和になることもある。その不協和が、旋律の行き先を探す。
「遥」
名を呼ばれ、遥は足を止めた。暗がりの中から姿を現したのは、王宮の古い侍女だった。彼女は遥の育ての母ではない。だが、彼女は幼い頃の遙に一度だけ水をくれた人だ。名を呼ぶその呼び方に、遥は一瞬、王ではない記憶に触れる。
「水を」
侍女が小さな盃を差し出した。盃は木でできており、縁がすり減っている。遥は受け取り、口を潤す。水は冷たい。冷たいが、舌の上で少しだけ甘い。侍女は言う。
「王様は、怖くてよろしい」
「怖いままで、立てるだろうか」
「怖いものは、風でございます。風は立たれますか」
遥は盃を返し、笑った。風は立たない。風に立つのは人の方だ。人が風に立つとき、風は人の形を縁取る。縁取られた風は、初めて形を持つ。形を持った風は、名に近づく。
第二部の幕が、まだ遠くの方でゆっくりと上がり始めている気配があった。紅月の反攻。宮廷の根の深い腐敗。摘むべき芽は、芽の形をしたまま木になる算段をしている。虫は木の内側に巣を作る。見える膚を撫でても、虫は出てこない。出てこさせるには、木を傷つける覚悟が要る。木を守るために、あえて傷を入れる。傷はいつか年輪に取り込まれ、傷であったことを忘れる。忘れることは赦しではない。生存の術だ。
遥は風に顔を上げる。頬の上で風が動く。動くということは、生きているということだ。彼はもう一度、言葉を胸の内で繰り返した。
「俺は、この国を見捨てない」
その言葉は、誰かの祈りと同じ重さで、誰かの呪いと同じ堅さだった。祈りであり、呪いであるから、後戻りがない。後戻りをしないために、人は半歩ずつ進む。半歩は、いつでも今日のぶんだけだ。明日の半歩は、明日の風の中でしか測れない。
遠く、城壁の外で犬が二度吠えた。吠えた方角に、灰の渡しがある。そこに芽がある。芽を摘みに行くのは、夜明けか、まだ夜のうちか。楓麟はきっと、眠りながら風の音を聞いている。藍珠はきっと、剣の鍔に指をかけたまま眠るふりをしている。井戸の村の少年は、手の紐の痕を舐める夢を見るだろう。夢の中でも、彼の足は半歩の凹みに重ねられている。
王は踵を返し、回廊を戻った。戻るという動作は、退くこととは違う。戻るのは、次に行くための位置に返ることだ。夜気が背中の汗を冷やし、冷たさが骨の奥に染みる。骨に染みた冷たさは、朝になっても少し残るだろう。その少しを抱えたまま、王はまた立つ。風に。名に。半歩に。
夜は、敗北ではない静けさで満ちた。静けさは、次の音を待っている。誰かが石突を、また一度だけ地に打つだろう。その音に呼応するように、別の場所で一度。拍は揃わない。揃わないまま、同じ方向に進む。その不揃いを指揮するのが王の仕事だ。王は完璧な拍を求めない。求めるべきは、崩れない拍だ。崩れない拍に、国は立つ。風に立つ。王もまた、風に立つ。
――そして夜明け。峠の上、白い旗がひとつ、湿りを払いながら上がった。白は何もない色ではない。書き出しの色だ。書き出しは、誰の手にも震えが宿る。震えが残る紙ほど、後の行が強くなる。王の胸の奥に、白い余白がひとつ開いた。そこに、今日の名を書く。ひとつずつ。濃さを揃えて。呼びながら。呼ばれながら。風に立つ王は、恐怖を抱いたまま、書き始める。明日へ続く行を。