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最底辺冒険者の逆襲  作者: シオヤマ琴


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第26話

「スキル、重力操作っ!」

 グルム大総統が口にした途端、僕の体が急激に重くなる。

「ぅおっ!? なんだこれっ……」

「げはははっ! これでもうお前は動けないぞ、なんせお前の周りの重力を最大出力の百倍にしたからなぁっ! さあ、潰れろ潰れろっ!」

 勝ち誇った笑みを浮かべるグルム大総統。

 だがその笑みは次の瞬間脆くも崩れ去る。

「なんだ本気出してこれか……だったら問題ないよ」

「なっ!? お、お前なんで動けるんだっ……!」

 僕は百倍になった重力の中を突き進んでいく。

 そして、

「ひ、ひいぃぃっ……!」

 逃げ出そうとしていたグルム大総統の首根っこを掴んだ。

「た、助けてくれっ、見逃してくれぇっ……!!」

「あんたは自国民を大量大虐殺した。それを世界評議会は決して捨て置けないそうだ」

「お、お前、世界評議会の回し者かっ……!」

「僕個人としてはあんたに恨みはないけど死んでもらうよ」

「ま、待ってく――ぐげっ……!」

 僕は掴んでいた首を一気にねじ曲げるとグルム大総統を絶命させた。

 グルム大総統の頭部がだらんと垂れる。

 すると、

『終わったようですね。それでは次はスウィッシュ共和国のマラッカ元帥を殺していただけますか』

 僕の耳にラウールさんの声が届いてきた。

「はぁ~、人使いが荒いですね」

『マラッカ元帥は自国の若く美しい女性を無理矢理自分の妻とするために兵士に命令して誘拐を繰り返しています。現在その被害女性の数は数千人に上っています。わたくしたちはそのような状況を良しとしません。クズミン様はどうお感じになりますか?』

 少し責めるような口調で訊ねてくるラウールさん。

「わかりましたよ。僕もそういう人間はこの世からいなくなったほうがいいと思います。だからやりますよ」

『ありがとうございます。それではお気をつけて』

 ラウールさんがそう言うと通信が一方的に切られた。

「さてと……じゃあ行くか」

 僕はグルム大総統を投げ捨てると、スウィッシュ共和国目指して再び歩みを進めるのだった。

 

 僕は世界評議会の言いつけ通り、世界中の凶悪な独裁者を殺して回っていた。

 それによりSランク冒険者のジャック・フラッシュという名前だけが世界中にどんどん知れ渡っていった。

 そしていつの間にか、世界の独裁者たちからは恐怖の対象としておそれられる一方、虐げられている者たちからは救世主としてあがめられる存在となっていた。

『既に二十人以上の独裁国家の要人を手にかけている現在、クズミン様つまりジャック・フラッシュは世界にとって必要悪となっています』

 とはラウールさんの言葉だ。

 僕は期せずして世界一の有名人となってしまっていた。


「ぐあああぁぁっ……!」

 スウィッシュ共和国のマラッカ元帥の断末魔の叫びを聞きながら、僕はマラッカ元帥の体から腕を引き抜く。

 僕の腕から血がぽたぽたと滴り落ちていくが、もちろん僕の血ではなくマラッカ元帥のものだ。

「ラウールさん終わりましたよ」

 腕についた血を振り払いつつラウールさんに声をかけると、

『ご苦労様でしたクズミン様。それではクズミン様はセンダン村にお戻りになられて結構ですよ』

 ラウールさんから思いがけない言葉が返ってきた。

「え、どういうことですか? もう独裁者はすべて始末し終わったんですか?」

『いえ、そうではないのですが、クズミン様つまりジャック・フラッシュにおそれをなした世界中の独裁者たちがここにきて急遽態度を改め出したのです』

「え? というと……?」

『突然これまでの方針を一変させ国民に対し真摯に向き合う姿勢をとる者や国のリーダーの座から自ら進んで降りる者、中には自分の罪を認めて刑務所に入る者など様々ですが皆一様にジャック・フラッシュに殺されることをおそれて行動し出したというわけです』

「へー……そうなんですか」

 僕の行動が知らず知らずのうちに世界を変えていたということだろうか。

『おかげで世界からは凶悪な独裁者が姿を消しました。一時的なものかもしれませんのでしばらくは様子を見ますがとりあえずジャック・フラッシュとしての活動はここまでというのが世界評議会の下した決定です』

「はあ、なるほど……わかりました。じゃあ僕はもうセンダン村に帰っていいんですね」

『はい。今まで大変お世話になりました。迎えの馬車を用意してありますのでご自由に使ってください』

 ラウールさんとの会話を終えると、馬車がタイミングよく僕のもとへとやってきた。

 御者の男性が「どうぞ乗ってください」とやけに小さな声で言ってくる。

 僕はその男性に軽く会釈をしてからその馬車へと乗り込んだ。

 と次の瞬間だった。

 ドゴオオォォーン!!

 僕が馬車のドアを閉めた直後、僕の足元にあった箱が大爆発を起こしたのだった。

 馬車の残骸がぱらぱらと空から降ってくる中、無事だった御者の男性が、地面に仰向けになって倒れている僕に向かって言葉を投げかけてくる。

「ふっ、本当にご苦労様でした。あなたの役割はこれにて終了です」

 その声には聞き覚えがあった。

 僕は爆発の衝撃を受けながらも目をゆっくりと開ける。

「!?」

 するとそこにはラウールさんが立っていて、涼しい顔で僕を見下ろしていたのだった。


「ラ、ラウールさん……ど、どういうことですか?」

 僕はよろよろと立ち上がると、ラウールさんに向かって声を飛ばす。

「おや、やはり爆弾くらいでは死なないようですね。さすがクズミン様」

 ラウールさんは背筋が凍りつきそうなくらい美しい微笑で返した。

「な、なんで僕を殺そうと……?」

 重い体を引きずりながら僕はラウールさんに歩み寄る。

「それが世界評議会の総意だからですよ」

「え……?」

「わたくしたちの脅威になりそうな世界各国の独裁者たちはあらかたあなたが始末してくれましたからもうあなたは用済みというわけです。たった一人の冒険者に好き放題させて世界評議会は何をやっているんだという苦情もたくさん来ていましたしね。この際なのですべてを知っているあなたには消えてもらおうというわけですよ」

 口角を上げにやりと笑うラウールさん。

「な、なんだと……あんたたちそんなことして僕に仕返しされるとは思わなかったのか……?」

「ですから確実に殺すためにさきほどの爆弾には細菌兵器を混ぜておいたのですよ。気付きませんか? 体の不調に」

「細菌兵器っ……」

 そう言われるとさっきから体が妙にだるくて重い。

 気分も悪くなってきた。

「あ、あんたたち……なんで細菌兵器なんか……」

 細菌兵器を作っているという理由でジュニア王子もヴェガ将軍も僕に始末させたはずなのに。

「細菌兵器は危険な代物ですからね。世界評議会だけが持っていればいいのですよ」

「か、勝手なことを……言う、なっ……」

 僕はそう口にしたところで再び地面に倒れ込んでしまう。

「ふっ、細菌が臓器に行き渡ったようですね。これであと数十秒もしないうちにあなたは死にます。それではさようなら」

 ラウールさん、いやラウールはそう言ってくるりと向きを変えた。

 僕が生き返れることも知らずに。

 

「待てラウール」

 静かに復活を遂げた僕はラウールの背中に声をぶつけた。

 それを聞いてばっと振り返るラウール。

 その表情は信じられないものを見たという驚きの念をはらんでいた。

「な、なんでっ……!?」

「僕は死んでも生き返れるんだよ。そういえばその話をした時あんたは寝ていたんだったな」

「な、なんだとっ、生き返れるだってっ……!」

「さっき世界評議会の総意で僕を殺すことにしたって言ったよな。世界評議会の連中はどこにいるんだ? 全員殺してやる」

「くっ、ふ、ふざけるなっ!」

 ラウールはいつもの涼しげな表情とは打って、変わり鬼のような形相で荒々しく声を上げた。

「確か世界評議会のメンバーは二十二人って言ってたよな」

 くしくもそれはこれまで殺してきた独裁者たちの数と同じだった。

「そいつらはどこにいるんだ? 居場所を吐け。吐かないなら地獄の苦しみを与えてやるぞ」

「こ、このオレがお前なんぞに負けるかぁっ!」

 ほえたラウールは「スキル、メタルドラゴン化っ!」と叫んだ。

 すると、ラウールの体が変色するとともに膨らみ始め、あっという間に銀色の巨竜へと姿を変えたのだった。

『フハハハハ、コウナッタオレヲトメルコトハモウダレニモデキンゾッ! イッサイノブツリコウゲキモマホウコウゲキモオレニハツウヨウセンカラナッ!』

「そうなのか?」

『ヤッテミレバワカル』

「じゃあやってみるかっ」

 言うなり僕は高く跳び上がると、銀色の巨竜と化したラウールの顔を思いきり殴った。

 だが、ものすごい硬さの皮膚に阻まれてしまった。

「うおっ!? なんだこの硬さはっ……!」

『フハハハハッ! ワカッタダロウ、オレコソガセカイサイキョウノセイメイタイナノダッ!』

 僕の攻撃が効かないなんて……。

「く………ど、どうすりゃいいんだ……?」

 僕は銀色の巨竜を目の前にして、久々に冷や汗というものを額から流していた。


 銀色の巨竜に変化したラウールとの戦いは熾烈を極めた。

 僕の攻撃はラウールのダイヤモンド以上の硬度を誇る皮膚に傷一つつけられないでいた。

 一方のラウールもまた、僕に対して決定的なダメージを与えることは出来ずにいた。

 一時間半にも及ぶ攻防で体力だけが削られる中、両者のにらみ合いが続いていた。

「はぁっ、はぁっ……さすがに疲れたな」

『ナ、ナンテヤツダ……コノケイタイノオレトゴカクニヤリアウナンテ』

 僕の攻撃は硬い皮膚によってふせがれてしまうし、ラウールは僕を殺したところで僕は復活をしてしまうのでお互いに決め手がない。

『シ、シカタナイ、コレダケハツカイタクナカッタガソンナコトヲイッテイルバアイデハナサソウダナ』

 ラウールはそう言うと口を大きく開けた。

『バーニングブレスッ!』

 言い放った途端、ラウールの巨大な口から高温の息が吐き出された。

 熱風となって僕を襲う。

「ぐあぁぁっ……」

 僕の皮膚が焼けただれていく。

 それとともに体がしびれて動けなくなった。

 僕は地面に倒れてしまう。

『……ヤ、ヤッタゾ。コレデモウオマエハウゴケマイ……ガ、ガフゥッ……!』

 攻撃を仕掛けた側のラウールもまた口から血を吐いて倒れてしまった。

 巨体が沈んで地面が大きく揺れる。

「……な、なんだ……?」

『バ、バーニングブレスハオレノナイゾウゴトヤキツクシテシマウノダ……カイフクニハジカンヲヨウスル』

 苦々しくつぶやくとラウールは元の人間の体へと戻っていった。

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