約束
次の日俺は何食わぬ顔で仕事に行った。
というかそれしかなかった。
「ふぅ・・・これで最後っと」
適当に書類整理を済ませ、コーヒーを一杯注ぐ。これが俺の至福の時間であった。
「ちょっといい?」
コーヒーを飲む横で、田村が口を挟む。
そして耳元で「ホントは親戚でもなんでもないんでしょ」と呟いた。
「ぶうっ!!」
焦って飲んでいたものを少し吹きだしてしまった。
「大正解ね」
「それがどうしたんだよ、俺は最低のロリコン野郎ですよ」
「まぁそう言わずにさ」
「何が言いたい」
言いたいことは分かっている。口止めか何かだろう。
「女の私から1つアドバイス、別に何も干渉しやしないけど・・・・道だけは踏み外さないでよ」
「それって、セッ―」
俺が言いかける前に彼女は行ってしまった。
でも彼女の言うとおり、まだ自分でも道は踏み外してないと思う。
だけどあんなのがまた続いたりしたら俺は・・・・手、出しちゃうのかな。
愛の前には理性も法律も常識も意味を成さない。ただの障害でしかない。
だけど、サクラが一瞬見せてくれたあの笑顔は実際かわいいものだった。
もっと見たい、いやもっと笑顔にさせたい。そう考えるのは果たしていけないことなのだろか。
哲学的なことを満員電車の中で考えた。
家に着いて携帯を見る。また彼女からメールだ。
「この前は楽しかったよ。服買ってくれてありがとう」
・・・貢いでる。俺は少女に貢いでる。貢いだ対価はつまり・・・・考えないことにした。
「いや、いいんだよ。笑顔が見れただけでも」
「ホントにいい人なんだね。驚いちゃった」
「驚いたって?」
「だって、出会ってたのがアナタじゃなかったら、私見知らぬ人とエッチしてたかもしれないよ」
確かに。確かにそうだ。俺じゃなければ、彼女は知らない男と身体を重ねてたかもしれない。
「俺がそういう奴だったら、どうした?」
そう聞かずにはいられなかった。
「それでも・・・エッチしてたよ。エッチしてお金もらってそれでオシマイ」
「もっと自分を大切にしたらどうだい」
「大切にするほど・・・・自分はそんな存在じゃないよ」
どうやら彼女には何か深い闇を隠し持っているようだった。あのときにはあんな輝かしい笑顔を見せてくれたのに。
「じゃあ、あのときの笑顔は偽りかい?」
「あのときは特別。本当に楽しかった。もう忘れられないよ・・・」
そのとき、1つの決心がついた。1人の大人として、1人の男として、サクラに光を見せてやりたいと思った。
また会おう。また会って、ちゃんと彼女と向き合おう。そのほうが・・・絶対にいい。
「また、デートしよう。こんどはちゃんとデートしよう。デートして楽しい思い出をたくさん作ろう」
もう俺は引き返せないところまで走り抜けた。
法律違反だかそんなのはいい。少女1人も笑顔にできないようなものに意味なんて無い。
私たちは常に無意味なものに誘導され、無機物的に操られているのだ。
その週の休日、俺はあの公園で彼女を待った。
もう一度あの場所で再会する―
それが『約束』だった。