噂のサクラちゃん
「今日も疲れたなぁ・・・はぁ」
家から帰ってきて、とりあえず服を脱ぐ。それからして冷蔵庫に入っていたビールを取り出す。
社会人になってもう3年。忙しすぎてあっという間だった。
大学時代の頃が懐かしいなんて思うのかもしれないけど、今にして思えばちゃんとした仕事につけるって幸せなことなんだと思う。この歳でビールの味が恋しくなった。恋人はお酒と、見えない交際相手。
今日も顔を見知らぬサクラちゃんとメールを交わす。あまりの寂しさにいわゆる『出会い系』に登録してしまったのだ。といっても相手はちゃんとした成人というか自分より年上のはずである。
「お仕事ごくろうさま」
彼女から慰めの言葉が返ってくる。こんなんで充足感を得るなんて、やっぱり間違いなのだろうか。
なんていろいろと考えているうちにまたメールが来る。
「今度会ってみませんか?」
突然のアタックであった。
今までメールだけで済ませていた関係が一気に進展する機会である。
正直、言葉に迷ったが顔を見ておきたかったので「いいですよ」と返しておいた。
日時はとある平日の夕方の公園で待ち合わせということに決まった。
当日―意外にもすぐに帰れたので遅れることにはならずに済んだ。
とりあえずベンチに座る。公園には俺と少し離れたベンチに座っていた制服の女の子だけであった。
それから1時間待った。待ち合わせの時間はとっくに過ぎていたが彼女の姿はまだ見えない。公園には未だ俺とあの女の子の2人だけだった。
「すっぽかされたのかなぁ・・・」
呟く俺に制服の女の子が近づく。その展開だけはよして欲しい。だが、そのなことは一瞬で崩壊した。
「あの・・・イチカワさんですよね・・・」
イチカワとは俺の名前である。なんでこんな少女が俺なんかの名前を知っているのだろう。
答えは簡単だ、目の前にいる少女が例のサクラちゃんに他ならないからである。